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ホーム全日病ニュース(2022年)第1010回/2022年6月1日号医師偏在指標の精緻化求める意見相次ぐ

医師偏在指標の精緻化求める意見相次ぐ

医師偏在指標の精緻化求める意見相次ぐ

【地域医療構想・医師確保計画WG】勤務場所や診療科の違い把握できない

 厚生労働省の「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキングループ」(尾形裕也座長)は5月11日、医師確保計画を通じた医師偏在対策の議論を再開した。同日は、医師の偏在状況を全国ベースで客観的に把握し、医師偏在対策に活用するための医師偏在指標の見直しが論点となった。委員からは、現状の指標では、病院や診療科の医師不足が適切に把握できないとの指摘など、指標の精緻化を求める意見が相次いだ。
 医師偏在指標は、従来の人口10万人対医師数の指標が、医師の偏在状況を十分に反映した指標となっていないことから、2018年に開発した。分子の医師数については、性別ごとに年代を区分した平均労働時間の違いを用いて調整した。分母の人口については、人口10万人対医師数をベースに地域ごとの性年齢階級による受療率の違いを調整した(右下表を参照)。
 国は、新たな医師偏在指標を用いて、全国335の二次医療圏を比較し、上位3分の1を医師多数地域、下位3分の1を医師少数区域、中間の3分の1を医師中程度地域とする基準を提示。都道府県が実施する医師偏在対策に活用している。
 医師偏在対策の基本的な考え方としては、医師少数三次医療圏は、他の医師多数三次医療圏から医師の派遣などを受けられる。医師多数三次医療圏は、他の三次医療圏から医師の派遣などを受けることができない。医師中程度三次医療圏は、医師少数区域(二次医療圏)が圏内にある場合には、必要に応じて、他の医師多数三次医療圏から医師の派遣などを受けられる。
 なお、現状(2020 ~ 2023年度)の都道府県の医師確保計画で用いている医師偏在指標によると、医師多数三次医療圏は東京、石川、滋賀、京都、大阪、和歌山、鳥取、岡山、徳島、香川、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、沖縄となっている(順不同)。医師少数三次医療圏は青森、岩手、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、長野、岐阜、静岡、三重、宮崎となっている(順不同)。

「もう少し強力な対策が必要」
 委員からは、現状の医師偏在指標に一定の妥当性は認めつつも、医師偏在対策を講じる上で、改善が必要との意見が相次いだ。最も多かった指摘は、医師が勤務する場所や診療科が区別されていないことへの対応だ。
 日本医療法人協会会長代行の伊藤伸一委員は、医師の勤務する場所で病院と診療所が区別されていないことを問題視した。また、現役世代の男性勤務医と、高齢医師や女性医師の労働時間の違いが、医師偏在指標上で、適切に反映されていないと指摘した。全国医学部長病院長会議理事の大屋祐輔委員は、研修医と指導的立場の医師の労働時間が同等に計算されていることに対し、違和感を示した。
 全日病会長の猪口雄二委員(日本医師会副会長)は、医師偏在指標上のデータは厚労省が実施する医師・歯科医師・薬剤師調査(三師調査)で把握していることを確認した上で、調査票ではさまざまな属性を記入していることから、そのデータを活用し、勤務場所や診療科を区別して、医師の偏在状況を把握することを求めた。
 これに対し厚労省は、勤務場所についてはさらに検討を進めるとしたが、診療科については、標榜する診療科と実際に提供している医療が異なる場合があることや、同一の医師でも複数にまたがる診療科の医療を提供しているなど入り組んでいるため、一定の限界があることを説明した。
 また、猪口委員は、特に医師少数区域において、総合医の役割を果たす医師が必要とされていることから、総合医の配置状況などを医師偏在指標に何らかの形で取り込むことも提案した。
 さらに、医師偏在指標を基にした都道府県の具体的な医師偏在対策を議論する地域医療対策協議会において、各三次医療圏内の医師不足地域に派遣される医師のキャリア形成プログラムの策定が主な協議事項となっており、三次医療圏間の医師確保策が十分に議論されていないことに懸念を示した。その上で、「医師数が西高東低である状況を変えることを含めて、もう少し強力な医師偏在対策を考えないと、地域の医師不足は解消されない」と主張した。
 全日病副会長の織田正道委員は、「医師偏在対策を考える上で、現状の医師偏在指標がベースになるが、委員から指摘があったように、さまざまな問題が含まれているため、それを活用するときには、慎重に取り扱う必要がある」と述べた。
 さらに、都道府県の医師確保計画で、目標医師数は8割強の都道府県が記載しているのに対し、二次医療圏単位の具体的な施策を記載している都道府県が3割強にとどまっていることについて、「医師偏在指標から設定される目標医師数は出てきても、医師の勤務先や診療科の偏在などがわからないため、具体策を講じることが難しくなってしまう。医師偏在指標の精緻化が必要だ」と強調した。
 医師偏在指標の精緻化については、厚労省が論点を提示している。
 具体的には、①大学病院等に勤務する医師が他の医療機関へ非常勤として派遣されている実態をどう反映するか(現状の医師偏在指標では、主たる従事先のみを考慮している)②医師偏在指標の受療率の計算に、引続き全国受療率を用いることについて、どう考えるか③入院・入院外ともに医療需要の減少があった直近のコロナ禍に実施した2020年患者調査で受療率を計算することについて、どう考えるか─の3つを示した。
 論点に即した委員の意見は少なかったものの、①については、非常勤医師として派遣されている実態が反映される指標の改善が求められた。②の受療率の計算については、全国的な医師配置の均てん化が目標であるため、引続き全国受療率を用いるべきとの意見が出た。③については、コロナ禍による医療需要の減少が除外できる直近の患者調査のデータを活用すべきとの意見が出た。
 同ワーキングループは、第8次医療計画に含まれる次期医師確保計画を策定するためのガイドライン改正に向け、秋のとりまとめを目指し、議論を進めていく。今回は、医師確保計画を立てる上で前提となる医師偏在指標がテーマとなったが、同日の議論を踏まえ、もう一度議論した上で、ワーキンググループとしての結論につなげる。

 

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  • [1] 2018.4.1 No.914

    2018/04/01 ...なって医師偏在対策に取り組むことや、 ... 「西高東低」で、平均が232人であるの. に対し、中央値が176人。 ... ググループ(WG、新田國夫座長)を開.

  • [2] 2017.5.15 No.894 新専門医制度で地域医療へのさらなる配慮求める

    2017/05/15 ...たな仕組みに対し、医師偏在の拡大を. 懸念する声が依然としてあることを ... 道府県別の届出病床数は「西高東低」 ... の考えで WG は一致している。

  • [3] 2018.10.1 No.926

    2018/10/01 ...改正医療法等が成立し、医師偏在対. 策など医療政策において都道府県に大 ... 退院するとともに、西高東低の療養病 ... 厚労省・在宅医療介護連携WG.

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