全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2022年)第1010回/2022年6月1日号公益性の基盤となる医療安全と事故調査支援を担当
医療安全文化の定着と深化に取り組む

公益性の基盤となる医療安全と事故調査支援を担当
医療安全文化の定着と深化に取り組む

公益性の基盤となる医療安全と事故調査支援を担当
医療安全文化の定着と深化に取り組む

シリーズ●全日病の委員会 第12回 医療安全・医療事故調査等支援担当委員会 今村 康宏 委員長に聞く

 全日病の委員会を紹介するシリーズの第12回は、医療安全・医療事故調査等支援担当委員会の今村康宏委員長にご登場いただきました。医療安全と事故調査支援という公益性の高い事業を担当する委員会の活動について、ご苦労されている点を含めて聞きました。
医療の質にかかわる2つの委員会を統合
──昨年8月に、医療安全担当委員会と医療事故調査等支援担当委員会が統合し、医療安全・医療事故調査等支援担当委員会になりました。背景を教えていただけますか。
 猪口会長の発案で、2つの委員会を統合することになりましたが、それまで全日病には、医療の質に関する委員会が3つありました(医療の質向上委員会、医療安全担当委員会、医療事故調査等支援担当委員会)。そのうち2つが統合することになりましたが、医療安全と医療事故調は、非常に整合性の高い領域であり、前向きな統合だったと思います。
 医療の質向上は、全日病が長年取り組んできたテーマです。「質の高い医療の提供」ということをよく耳にしますが、言い換えると、「安全で安心な医療の提供」ということです。事故防止・安全確保は社会の要請であり、医療者が取り組むべき義務であると言えます。そのためには、継続的な質向上の努力が必要です。
 全日病では、飯田修平先生がイニシアティブをとって、医療の質向上にむけて現在の研修の形をつくってこられました。当委員会には、飯田先生をはじめ西澤寛俊前会長、東邦大学の長谷川友紀教授、弁護士の宮澤潤先生など、全日病の医療安全と事故調の歴史をつくってきた専門家の方々が勢ぞろいしています。そこに加わらせていただいて、医療の質に関する活動の奥深さを感じています。
研修を通じて医療安全文化を普及
──具体的な活動内容を教えていただけますか。
 まず、医療安全に関しては、医療安全管理者養成課程講習会が中心的な事業です。それ以外にも各種の研修会を実施し、会員病院の医療安全文化の発展を目指して取り組んでいます。
 一方、医療事故調査等支援では、医療事故調査・支援センターに報告すべき事例に該当するかどうかの判断をはじめとして、医療事故調査制度の適応にかかわる様々な内容について、会員病院に対するサポートや啓発活動を行っています。
 医療安全と事故調はアウトプットとしての事業は違うのですが、根幹は一つだということを実感していて、2つの委員会が一緒になったことはよかったと思います。
 また、統合によって、規模の大きな委員会になっています。委員の人数も多いですし、とにかく研修会の数がすごい。受講生の数も多いし、研修会の時間数も多く、講師の選定もたいへんな作業です。
──医療安全管理者養成課程講習会について教えてください。
 当委員会の根幹となる研修です。全体で40時間の講習会ですが、第1クール、第2クール、第3クールに分けて実施しています。40時間は、厚生労働省で定めた研修時間であり、どんな研修を行うかが細かく規定されています。
 当委員会で実際のプログラムを作成し、厚労省とやりとりをしながら認可が得られることを確認した上で案内していますが、病院の施設認定や病院長の要件にかかわる部分もありますので、きっちりと国の基準に沿った研修会を行う必要があります。
 第1クール、第2クールは座学の研修会で、2日間の研修を2回行います。医療安全や質向上にかかわる基本的な部分をしっかり学んでいただくようにしています。
 第3クールは、グループワークを行っています。1日目はRCA(根本原因分析)、2日目はFMEA(故障モード影響解析)で、医療安全を担当する方なら、避けては通れない二つのツールについて学んでいただいています。
──新型コロナの影響で、研修会の実施にご苦労があるのではないですか。
 集合形式のグループワークができなくなって、オンラインと対面のハイブリッド方式で実施していますが、隔靴掻痒の感がありますね。オンラインでは、ニュアンスが伝わらない部分があり、苦心していますが、事務局にたいへんご苦労をいただいて何とか実施できています。
 ハイブリッド方式は、運営面の負担が大きいため、研修会は集合形式かWEB 形式のどちらかにするという方針があるのですが、無理をお願いして、医療安全管理者養成の第3クールだけはハイブリッドで実施することを認めていただきました。
 この講習会は、150 ~ 200人の受講申し込みがあり、認定更新が必要な人もいますので、人数を絞るわけにもいきません。受講を希望する人はできるだけ受けていただきたいということで、人数が多くなっています。これを完全WEB にすると、6~7回の開催となって、会場が確保できないし、ファシリテーターの確保も難しいのです。この点をご理解いただき、ハイブリッド方式を認めていただいています。
 このように苦労しながら実施していますが、たいへん内容のあるコースです。RCAとFMEAについて、それぞれ1日の研修で体得できるかというとおそらく難しいと思います。しかし、ここで学んだことは、自分の病院で実際に医療事故に対応することになったときに必ず生きてくるはずです。
相互評価者養成講習会に多くの参加を
──そのほかの研修会については、いかがですか。
 医療安全管理体制相互評価者養成講習会は、全日病として重視して取り組んでいるものです。相互評価とは、医療安全のシステムがしっかり働いているかを病院同士がお互いに評価し合うものです。相互に評価をすることで、医療安全のレベルの向上と地域内の連携強化に役立てようというねらいがあり、今年度は厚労省の研究事業の一環として実施しています。
 相互評価加算の点数があまり高くないこともあり、受講生の確保に苦労していますが、たいへん意義のある取組みであり、ぜひ多くの方にご参加いただき、相互評価についての理解を深めていただきたいと思います。
事故発生時の対応をシミュレーション
──医療事故調査の研修会について説明していただけますか。
 委員会の統合前は、細川吉博先生が医療事故調査等支援担当委員会の委員長をされていて、現在、副委員長をしていただいています。
 研修会としては、「医療事故調査制度への医療機関の対応の現状と課題」研修会があります。この研修は座学で医療事故調査制度の基本的な考え方や全日病のスタンスについて、広く知っていただくことが目的です。
 また、「医療事故調査制度事例検討研修会」があります。医療事故として報告すべきか、あるいは報告しなくていいのかについて、多くの事例に基づいて考えていただくもので、グループワーク形式で実施しています。
 さらに、「院内医療事故調査の指針事故発生時の適切な対応研修会」があり、これもグループワークで行います。それぞれの病院で事例検討を行っていただくのですが、自分の病院で医療事故を疑う事例が出た場合、どのように対応するのかを、実際の対応でシミュレーションしていただく研修会で、極めて意義深いものです。重大な事案が発生すると、頭が真っ白になってしまって、まともな対応ができなくなります。研修を受けて、シミュレーションしておくことによって、不幸にして自分の病院で事案が発生した場合にも、冷静に対応できるようになっていただきたいと思っています。
厚労省と折衝して研修の仕組みをつくってきた
──医療の質向上は、医療現場の努力なしに進みません。
 医療安全や事故調の研修は、法令に基づいてつくられていますが、厚労省と折衝しつつ、現在の仕組みをつくってきた歴史があります。厚生労働科学研究費補助金事業(以下、「科研事業」)を受託したり、検討会の委員として活動する中で、全日病として発言し、研修の仕組みをつくってきたと思います。
── 最近の科研事業の動きについて、教えていただけますか。
 科研事業で相互評価の調査を進めています。飯田先生とともに、私も共同研究者の1人としてかかわっていますが、研究成果を研修内容に反映させていきたいと思います。報告書をまとめるだけではなく、科研事業を通じて、医療現場と行政のつながりをつくる意味もあります。
 我々は医療現場の生の声をもっているわけですから、それを厚労省にしっかり伝え、実態をわかってもらう必要があります。厚労省も全日病に期待してくれていますし、科研事業を含め、いろいろな場面で厚労省との接点があることが全日病のパワーの源だと思いますので、委員会活動を通じて、医療現場の実情を行政にフィードバックしていきたいと思います。
時代の変化に合わせて研修内容を変えていく
──今後の取組み方について教えてください。
 全日病は、公益社団法人であり、高い公益性と公平性が求められます。その中で、医療安全や事故調査制度といった事業は、真ん中にある事業であり、これほど公益に資するものはないと思っています。
 全日病の基盤となる事業を担当させていただき、たいへんではありますが、やりがいのある仕事を経験させてもらっています。
 医療の質の向上を通じた医療安全文化を多くの病院に定着させ、深化させていくことが当委員会の使命だと思っています。この使命を損なわないようにしたいし、先輩方が何十年にもわたってつくってきた研修会をさらに発展させていきたいと思っています。
 一方で、時代とともに変えなければいけないものもあります。医療安全を大事にするところは変えずに、世の中の情勢に対応する必要があり、例えばコロナの蔓延期において、どこまでの医療安全をどんなプロセスで達成すべきかなど、委員会でいろいろ話し合っていますので、そうしたこともできるだけ研修会に盛り込んでいきたいですね。
 コロナが収束しても、医療を取り巻く環境は大きく変わっていくでしょう。その中でも、医療安全を確保しつつタフに病院として生き残っていくことが病院の至上命題になると思います。
──ありがとうございました。

 

全日病ニュース2022年6月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 第2章 医療の質と安全確保:「病院のあり方に関する報告書 ...

    ... の見える化、改善、RCA(Root Cause Analysis、根本原因分析)、FMEA(Failure ... 国際展開イニシアティブ」の中間報告を踏まえて、2014 年6月、日本の今後の ...

  • [2] 病院のあり方に関する報告書

    2002/10/03 ...FMEA も RCA も、組織横断的に関係する部署の職員でプロジェクト ... 善へ向けてイニシアティブを取る責任を有する、との認識に基づいて行われた。

  • [3] はじめに

    米国のHospital Quality Initiative(MMA section 501(b))では、病院は入院患者 ... 手法を医療事故の原因分析方法に適用したRCA(根本原因分析)、FMEA(故.

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。