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ホーム全日病ニュース(2022年)第1010回/2022年6月1日号新型コロナ流行下の医療提供体制と病院の役割

新型コロナ流行下の医療提供体制と病院の役割

新型コロナ流行下の医療提供体制と病院の役割

【日本医師会】病院委員会が報告書をまとめる

 日本医師会はこのほど、2020・2021年度病院委員会審議報告「新型コロナウイルス感染症の流行下における医療提供体制と病院の役割」(委員長= 松田晋哉産業医科大学医学部教授)を公表した。全日病役員では、神野正博副会長と猪口正孝常任理事(東京都医師会副会長)が委員会に名を連ねている。以下で、報告書の概要を紹介する。

(はじめに)
 新型コロナの日本における感染者数は2022年3 月15日時点で5 万781人。感染者の累計は586万3,943人で、死亡者の累計は2万6,465人である。当初は病態の詳細が不明で、有効な治療手段も確立しておらず、社会全体の不安が高まった。地域によっては、感染者の急増に入院医療体制が追いつかず、東京都や大阪府では入院が必要なレベルの中等症患者が自宅療養を受けざるを得ない状況も発生した。
 しかし、この間にワクチンや治療薬の開発も進み、また受入れ医療機関においても診療経験の蓄積が進み、医療機能が完全に麻痺する状況には至らなかった。他の先進国に比較して、我が国の新型コロナの感染状況及び対応状況は、相対的によいと言える。
 他方で、今回の新型コロナの流行が我が国の医療(介護)サービス提供体制が潜在的に抱えていた脆弱性を明らかにしたことも事実である。
(提言)
①情報の標準化とその共有および柔軟な活用を行う体制の整備、その前提としてのマイナンバーカードの活用
 新型コロナのような大規模な感染症の流行時には、刻々と変化する状況に対応した対策を柔軟に行っていく必要がある。そのためには、情報共有をいかに低負荷・低コストで行うかがポイントになる。そのためには、情報の標準化は不可欠であり、かつそれが個人に結び付けられているものでなければならない。
 諸外国の先進事例からも明らかなように、電子カルテの標準化が健康危機管理対応に際しても最重要事項の一つであり、以前より日本医師会が主張していることである。日本医師会が医療界をまとめ、一丸となって標準化を強力に推進すべきである。
②地域医療計画および地域医療構想の実効性の向上
 健康危機管理は平時からネットワークが機能していないと対応が難しい。地域医療計画の中で、医療機関間の連携が具体的に記述されるべきであろう。地域医療計画や地域医療構想で本来議論されるべきことは、ネットワークをいかにつくるかであって、病床数をどうするかではないはずである。
③急性期を担う病院の集約および大規模化と十分な人員の配置、そしてそれを可能にする診療報酬あるいは予算制度
 諸外国と比較すると、日本の急性期病院は人員配置が薄い。急性期病院については、機能を集約した上で、人員配置を厚くすべきである。また、高齢者施設におけるクラスター発生が問題になっていることを考えると、そうした施設における医療対応のあり方についても見直しが必要である。急性期以後の医療の再評価が求められている。
④医学教育、看護教育の改革
 他の先進国の医学教育、看護教育と比較すると、我が国の卒前教育は臨床教育が弱い。改正医療法により来年4月以降、共用試験に合格した医学生は臨床実習として医業を行えるようになるが、他国の制度を参考に、より実践的な医学教育、看護教育のための改革が求められている。
⑤複合化したニーズを持つ患者の在宅医療を可能にするためのテレメディシン(遠隔診療)の導入と在宅入院制度の制度化
 フランスやイギリス、ドイツでは、新型コロナの流行により、テレメディシンが普及したが、濫用の危険性も問題視されている。患者の多くは対面診療を希望しており、その適切なミックスのあり方の議論が行われており、そうした議論を参考に、我が国でも議論を進めるべきであろう。
 また、我が国では、退院に際していわゆる出口問題が議論になる。フランスの在宅入院のような枠組みを、現行の地域包括ケア病棟の役割の一環として位置づけることを検討すべきである。
⑥病診連携の強化のための新しい登録医制度の導入
 小児科領域では地域の小児救急を支えるために地域連携小児夜間・休日診療料が設定されており、多くの地域で開業医が小児診療を行う病院で夜間・休日の診療を行う体制が構築されている。このような仕組みを一般化し、健康危機管理時に多くの人員が確保できる平時の準備が必要であると考える。
⑦日本医師会の強いリーダーシップと広報活動
 対応病床の確保、無症状者、軽症者の在宅対応、予防接種体制の整備など、各都道府県で医師会や病院団体の関係者が行った努力が国民に正しく伝わっていない現状が改善されなければならない。そのためにも、日本医師会の強いリーダーシップのもと、国民の不安感を解消するための広報活動が必要であり、そのための広報戦略の立案が必要であると考える。
(コロナの出口戦略)
 今後、緩和の時期に向けては、多くの病院が現在のコロナ対応体制を、通常の体制により近づけていくことになるが、新型コロナは変異を繰り返しており、いくつかのシナリオを想定しておく必要がある。
 コロナ対応病床の整備と病院への経済的支援は不可分であり、切り離すことは難しい。コロナ対応病床の出口戦略を考える場合には、どのように病院支援策を移行させるかに関しても、十分配慮されるべきである。

 

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