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ホーム全日病ニュース(2023年)第1027回/2023年3月1日号地域密着型の中小病院が在支病となってかかりつけ医機能の中心的な役割を担う

地域密着型の中小病院が在支病となってかかりつけ医機能の中心的な役割を担う

地域密着型の中小病院が在支病となって
かかりつけ医機能の中心的な役割を担う

【特別インタビュー】日本在宅療養支援病院連絡協議会の取組みと今後の展望

 日本在宅療養支援病院連絡協議会が昨年3月に設立された。在宅療養支援病院は、地域密着型の中小病院が担う病院機能としては唯一、診療報酬上で明確化されている。在支病には、日常生活圏域の範囲で整備する地域包括ケアの要として、在宅医療や緊急入院などを実施・支援する役割が求められている。また地域の診療所と連携し、かかりつけ医機能を担う主体としても、期待されている。日本在支病連絡協議会の鈴木邦彦会長と織田正道副会長に在支病の役割や今後の取組みをきいた。

出席者(文中敬称略)
医療法人博仁会 志村大宮病院理事長・院長、茨城県医師会会長、日本医療法人協会副会長、日本在宅療養支援病院連絡協議会会長
鈴木邦彦
社会医療法人祐愛会 織田病院理事長、全日本病院協会副会長、日本在宅療養支援病院連絡協議会副会長
織田正道
※特別インタビューは1月20日に実施しました。写真は、左が鈴木会長、右が織田副会長

2022年3月に連絡協を法人化
──なぜ、昨年3月のタイミングで設立したのかということを含めて、日本在支病連絡協議会発足の経緯と狙いについておききします。

鈴木 法人設立までの経緯を振り返ると、社会保障・税一体改革の議論の中で、2013年8月6日に政府の社会保障制度改革国民会議が報告書をまとめ、地域医療構想の実現や地域包括ケアの構築が謳われました。その2日後、当時、私は日本医師会の常任理事でしたが、日医・四病院団体協議会として合同提言を行いました。
 合同提言の主張には2本柱があり、一つはかかりつけ医機能の充実・強化であり、それは日医のかかりつけ医機能研修制度の創設につながりました。もう一つが、地域包括ケアを支援する中小病院・有床診療所の意義を訴えることでした。同年11月18日の四病協の追加提言では、そのような医療機関を「地域医療・介護支援病院」と位置づけました。
 これを受け、2014年度診療報酬改定では地域包括ケア病棟入院料が新設され、2018年度改定では、病院機能として200床未満の病院だけが算定でき、地域包括ケアの実績を評価した入院料1・3等が新設されました。病院機能としての評価を目指していたので、完全とは言えませんが、我々の主張が部分的には実現したことになります。そして、2022年度改定で病院機能としての在支病が明確化されました(後述)。
 その後、私は日本医療法人協会副会長としての四病協の活動の中で、織田正道先生に代わり、四病協の在宅療養支援病院に関する委員会の委員長となりました。ただ、四病協の委員会だと「発信力」に限界があり、もう少し独立した形でやりたいという思いがありましたので、四病協の会長先生方と相談し、昨年3月に日本在支病連絡協議会の設立に至ったということになります。
 なぜ、このタイミングでの設立なのかということでは、医療・介護等の同時報酬改定が2024年度であり、昨年いっぱい議論された第8次医療計画も2024年度から始まります。また、社会保障・税一体改革は元々、2025年を見据えた改革ですので、それに間に合う形で、我々の取組みもスピードアップさせたいと思っていました。
 また、コロナ禍では、大病院と比べて、中小病院がコロナ患者を診療しないという批判が一部の報道でありました。しかし、急性期の大病院と地域密着型の中小病院では機能が異なり、中小病院は大病院のミニ版ではありません。急性期の大病院であれば、コロナの重症患者を一定数受け入れることができますが、中小病院ではそれが難しいことをわかってほしいと思っていました。
 今後の機能の明確化では、高度急性期の大病院は人口50万~ 100万人あたり一か所程度、医療資源を集約化し、高度急性期医療の機能を高める必要があります。他方で、地域密着型の中小病院は人口2万~4万人あたり一か所程度の分布で、集約化ではなく、むしろ分散化させることが求められます。超高齢社会を乗り切るためには、このような体制を作っていくべきです(下図参照)。
 茨城県では、コロナの第3波で、急性期の大病院がコロナ患者を受けきれなくなり、地域密着型の中小病院が後方支援を行い、中等症・軽症のコロナ患者を受け入れたり、在宅療養などの患者を支援したりしました。急性期の大病院だけの対応では、退院できない患者が溜まって、新規受入れができなくなります。中小病院との連携により、医療崩壊を起こさずに切り抜けました。
 このように、急性期の大病院と地域密着型の中小病院という2つの軸が必要です。前者は、特定機能病院や地域医療支援病院が担いますが、後者の病院機能は、在支病だけです。200床未満の病院を対象にした診療報酬はいろいろな項目がありますが、病院機能としては在支病だけが明確化されているので、日本在支病連絡協議会の設立ということなりました。
 日本在支病連絡協議会への加入を想定する地域密着型の中小病院の中でも、「医療型」、「医療+介護型」、「医療+介護+生活型」があると考えています。志村大宮病院は「医療+介護+生活型」ですが、織田病院は「医療+介護型」だと思います。地域の実情に応じて、それぞれの役割が異なってきます。

複数の診療所と中小病院が連携
──在支病を含む地域包括ケアを支える中小病院の役割は何でしょうか。

織田 人口構造の変化を考えることが、まずは重要な点です。2035年には85歳以上が1千万人を超え、大きな人口のマスになります。そうなると、すでに地方では起き始めていることですが、85歳以上高齢者の救急搬送が急増します。
 救急搬送し急性期での治療後は、回復期・慢性期のベッドに転棟する流れがあるとしても、全体のボリュームが大きく増えますので、在宅に戻る方も急増します。実際、診療報酬の在宅患者訪問診療料や往診料の最近の算定回数をみれば、一目瞭然です。
 これに対応するために、他の医療機関などと連携する地域密着型の中小病院の役割が不可欠になります。地域医療構想と地域包括ケアシステムの2本柱という位置づけでは、前者が垂直連携、後者が水平連携という形を取ります。地域医療構想の単位は、二次医療圏単位の構想区域であり、人口で20万人程度が想定されています。一方、地域包括ケアの単位は自治体レベルであり、人口1万人程度の地域もあります。このように、面積・人口の単位が異なるので、これをどのようにつないでいくかが重要な課題となります。
 地域包括ケアの単位で求められるのは、やはり在支病などが担うかかりつけ医機能です。中小病院が、在宅医療などを提供する複数の診療所を支え、または自らも在宅医療を提供することになります。在宅医療を提供する上で、診療所の先生方のボトルネックになっているのは、24時間の緊急時対応ですので、これを中小病院が支える必要があるのです。
 地域密着型の中小病院が、急性期の大病院と連携しつつ、地域包括ケアにおいては水平連携で、複数の診療所や介護サービスなどを支えるというイメージです。
 85歳以上の高齢者をみんな急性期の大病院に搬送すれば、救急医療はパンクしてしまいます。特に、複数の慢性疾患や認知症のある高齢患者への医療においては、急性期の大病院で、臓器別専門医主体の治療を行うよりも、地域密着型の中小病院で、総合医療のマインドを持った医師が、多職種と協働したチーム医療を行い、生活支援を含めた全人的な医療を行うほうが、患者にとって望ましいでしょう。
 佐賀県では、地区医師会を通じ、在支病などに窓口を設置して、住民・患者が医療の相談ができるようにしています。窓口施設の医療機関に求められる機能としては、◇24時間対応、◇かかりつけ医の後方支援、◇入院の随時受入れ、◇診療情報の一元化・共有化、◇多職種育成研修、◇在宅医療支援相談窓口、◇住民への啓発活動などがあります。
 どれも重要な機能であり、地域密着型の中小病院の役割が地域で果たす役割が、地域によりますが、大きくなっているように感じます。行政が人員を減らしている中で、行政が担ってきた役割も部分的に果たしています。その意味では、鈴木先生が理事長の法人がその代表格ですね。

在支病がかかりつけ医機能を担う
──政府のかかりつけ医機能の制度整備の議論に一定の結論が出ましたが、具体的な論点は今後の課題です。地域密着型の中小病院が担う「かかりつけ医機能」とは何でしょうか。

鈴木 日本の診療所・有床診療所・中小病院は、根が一緒です。明治中期以降、政府が西南戦争の後に、財政難で公立病院を減らしたので、医師がベッドを持って開業することが求められました。その意味では、志村大宮病院は、典型的な民間中小病院で、元々は有床診療所のようなものでした。私が引き継いだ30年前までは収入の半分は外来からでしたから。小さい頃に、午前中は外来、午後に病棟回診して、その後は往診を行っていた父の姿を今でも思い出します。
 社会保障審議会・医療部会の意見のとりまとめをみると、かかりつけ医機能とは、①持病(慢性疾患)の継続的な医学管理②日常的によくある疾患への幅広い対応③入退院時の支援④休日・夜間の対応⑤在宅医療⑥介護サービス等との連携─です。まさに、地域密着型の中小病院が担うべき機能です。かかりつけ医機能を担う母体として最もふさわしい医療機関の一つが、在支病であると言えるでしょう。
 一方、診療所がかかりつけ医機能を担う場合には、日本はソロプラクティスのかかりつけ医が多いので、グループ化する必要があります。その際に、在支病と連携する形があると思います。超高齢社会のかかりつけ医機能を考えれば、いざという時に入院できるということは大きなメリットで、在支病が受け皿になることができます。
 在支病の機能にも違いがあり、織田病院が救急医療も担っているのに対し、志村大宮病院は市内に公的急性期病院があるので、回復期、慢性期、リハビリ、介護といった機能に力を入れ、地域を支援してます。
 最近、『田舎暮らしの本』(2023年2月号)という本で、「住みたい田舎」ベストランキングの結果が載っていて、北関東のシニア世代部門では、当院のある茨城県常陸大宮市が第1位でした。アンケートの37項目中23項目が、志村フロイデグループの活動に関連する項目であったと、行政の方から感謝されるということもありました。

全日病がかかりつけ医機能を支援
──全日病は、政府が「かかりつけ医機能」が発揮できる制度整備の議論を進めていることを踏まえ、昨年12月22日に、「かかりつけ医機能に関する考え方」を示しています。

織田 全日病に加入している2,542病院のうち、約2千病院が200床未満の、地域密着型の中小病院です。それらの病院に全日病のかかりつけ医機能に関する考え方を伝え、積極的にかかわる準備を進めてほしいという気持ちを込めて、考え方を示しています。
 その中で、「かかりつけ医機能において、休日・夜間の対応、急変時の入院対応といった二次救急機能や在宅医療の提供とその支援機能、さらには介護施設との連携機能において、(地域に密着し)地域医療を担う病院=かかりつけ医機能支援病院としての民間中小病院の役割が重要となる」と明記しています。その上で、全日病としての取組みを明らかにしています。
 1つ目は、前述した「地域密着型の中小病院が積極的にかかわる準備を促すということ」、2つ目は、「診療所や他の中小病院への支援と連携を図る研修を実施するということ」、3つ目は、「病院総合医育成事業の継続と拡大を図るということ」、4つ目が、「かかりつけの関係の確認を希望する患者に対して交付する適切な書式の検討を行うということ」です。
 こうした取組みにより、かかりつけ医機能を担う地域密着型の中小病院を増やしていければと思っています。

2022年度改定で在支診が明確化
──2022年度診療報酬改定においても在支病の施設基準の変更などがありました。在支病の診療報酬に対する評価についておききします。

鈴木 その前に、私が四病協から参加させていただいた「第8次医療計画等に関する検討会」の「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」におけるとりまとめの内容を紹介します。まず、都道府県が適切な「在宅医療圏」を設定することが明示されました。そこで、「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」と「在宅医療に必要な連携を担う拠点」を医療計画に位置付けることになります。
 これまで、実際に在宅医療を担う医療機関、連携を担う拠点をきちんと位置付けてきた地域は少なかったので、これが進むことによって、在宅医療がいよいよ入院・外来と並ぶ存在になっていくと期待できます。
 「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」としては在支診・在支病が例示されるとともに、機能強化型在支診・在支病が指標例に追加されます。一方、「在宅医療に必要な連携を担う拠点」については、「在宅医療・介護連携推進事業」を担う主体と同一であることを含め、両者の関係を記載することになりました。
 「在宅医療・介護連携推進事業」は、さまざまな経緯の末に、介護保険の地域支援事業に位置付けられ、多くの場合、地域包括支援センターが担っています。一部にきちんと機能していないところもあると聞いており、郡市区医師会や在宅医療を担う医療機関も、連携を担う主体として活用していけばよいと思います。
 これらの第8次医療計画の動きは、2024年度の同時改定と重なるので、とても重要になります。
 さて、診療報酬については、四病協の委員会でのアンケート調査の結果などを踏まえ、2020年度改定で、在宅療養支援病院に在籍し往診を担当する医師について、緊急時の連絡体制と24時間往診できる体制を確保していれば、当該病院内に待機していなくてもよい旨が明確化されました。それまでは、当直以外の待機医師も院内にいないといけないと思われていたのが、オンコールでもよいと明確化されました。
 2022年度改定は、それまで同じだった在支診と在支病の施設基準が区別され、在支病という病院機能が明確になったという点でより重要です。
 具体的には、機能強化型在支病の実績基準で「過去1年間の緊急往診の実績」がありました。しかし、病院には入院機能があるため、「在支診等からの要請により患者の緊急入院を行った実績」や「地域包括ケア病棟入院料1・3等の届出」があれば、往診実績の基準は満たしていなくてもよいことになりました。これも四病協の委員会のアンケート調査の成果と言えます(下表参照)。

300会員目指し積極的に活動
──日本在支病連絡協の今後の取組みを教えてください。

織田 在支病が病院機能として明確化されたことの意味は大きいと思います。今後、日本在支病連絡協議会としては、地域密着型の中小病院が、四病協の中には多くあります。積極的に情報提供を行うなど会員数を増やす活動を活発化していきたいと考えています。団体としての発言力を大きくするのに、やはり数は大事です。
 全日病のプライマリ・ケア検討委員会の先生方が、日本在支病連絡協議会の役員になっている経緯もありますので、プライマリ・ケア検討委員会で研修会を開催することも、参加を促す活動になります。日本在支病連絡協議会は今回、法人として独立しましたが、四病協として協力できることはたくさんあると思っています。
鈴木 事務局は全日病ですし、私は医法協副会長ですが、全日病副支部長でもあります。全日病は病院団体の中で一番会員数が多く、全日病を通じた活動は、大きな力になります。会員数は現在まだ150会員ですので、当面300会員を目指し、積極的に活動していきます。

 

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