全日病ニュース

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プライマリ・ケアの現場で活躍する医療人を育成
総合医育成事業では一歩踏み出す気持ちを後押し

プライマリ・ケアの現場で活躍する医療人を育成
総合医育成事業では一歩踏み出す気持ちを後押し

【シリーズ●全日病の委員会】第4回 プライマリ・ケア検討委員会 牧角寛郎委員長に聞く

 全日病の委員会を紹介するシリーズの第4回はプライマリ・ケア検討委員会。同検討委員会は、全日病「プライマリ・ケア宣言2013」に基づき、認知症とソーシャルワーカーの研修会を主な活動としてきた。昨年7月には総合医育成事業が始まり、さらに、今後は在宅医療の議論を本格化させる。

認知症の研修会を開催し
ユマニチュード普及に貢献

―プライマリ・ケア検討委員会が設置された経緯を教えてください。
 2013年8月7日に全日病が採択したプライマリ・ケア宣言に基づきます。この宣言では、プライマリ・ケアの重要性を認識した上で、新たな行動目標として、2点が提示されています。
 第一は、「在宅医療・介護対応」で、「すべての会員施設が地域におけるそれぞれの役割を確認し、診療所をはじめ医療・介護・福祉施設との連携を進め、さらなる在宅医療・介護の充実に協働する」と謳いました。第二は、「認知症対応」で、「国民的な課題である認知症に、個別的かつ包括的に対応できるよう、様々な具体的方策を提言・実行する」と宣言しています。
 これを受けて、丸山泉常任理事(当時)が日本の医療の喫緊の課題として、少子化・高齢化による担い手不足や人口の偏在に伴う医療施設の偏在など、解決すべき7つのテーマを示しました。それを踏まえ、2013年9月5日に、第1回プライマリ・ケア検討委員会を立ち上げ、プライマリ・ケアにかかる諸問題を重点的に対応することになり、現在に至っています。
 検討委員会が始まって、具体的に何に取組むかを考えてきました。宣言発表から約5年間の代表的な活動をあげると、◇病院職員のための認知症研修会◇病院看護師のための認知症対応力向上研修会◇病院医療ソーシャルワーカー研修会になります。そして、昨年からは総合医育成事業を開始しました。
―認知症の研修会ではどのような研修を行おうと考えたのですか。
 検討委員会の最初の取り組みとして、まずは認知症に対応するための研修から始めることになりました。認知症患者は予備群まで含めると、800万人以上になると言われています。高齢者は多疾患罹患の一つとして認知症を患っていることが多く、会員施設が認知症対応力を高めることは、喫緊の課題であると考えたからです。
 2013年9月11、12日に第1回「病院職員のための認知症研修会」を開きました。その後、翌年の1月11、12日の第2回研修会では、認知症ケアの技法の一つである「ユマニチュード」の創始者であるイブ・ジネスト先生を招き、ユマニチュードを中心とした研修会になりました。イブ・ジネスト先生が、たまたま日本に来ているタイミングで幸運でしたが、丸山先生がイブ・ジネスト先生に知己があり、研修会に呼ぶことができました。患者に対して医療者は、しばしば「上から目線」的になってしまうものですが、ユマニチュードは逆に「下から見る」技法です。私自身、体験して有効な伝達方法だと感じました。
 その後も毎年の研修会で、ユマニチュードを学ぶことを繰り返しています。ユマニチュードは全国に広まり、NHKの特集番組にも取り上げられ、一時期ブームになりました。私たちはその先駆けになったと自負しています。今では、全国各地の病院で、認知症に対する技法として欠かせないものとなっているようです。
 さらに、2016年度診療報酬改定で新設された「認知症ケア加算」に対応するため、2016年5月26、27日に、第1回「病院看護師のための認知症対応力向上研修会」を開きました。病院が加算を取れる看護師を育てることを目的とした注目度の高い研修会です。東京だけでなく、地方開催の要望も強く、2018年からは福岡での開催が実現しました。定員を超えるほどの受講者が集まり、好評でした。今後も地方開催を継続していきたいと思います。
 1病棟に研修を受けた2人以上の看護師がいれば加算が取れるのですが、離職や定年退職で入れ替わりがあり、どの病院もそれ以上の人数を確保しておこうというのが実情のようです。病院にとって、需要の大きな研修会だと感じています。
―工夫していることはありますか。
 第1回目は座学のみでした。まずは知識が第一歩になるからです。しかし会員病院から、現場で毎日患者と接する職員たちの研修であり、実習を多くしてほしいという要望がありました。そこで、ユマニチュードの技法を学んだ第2回目は、ほとんどが実習でした。
 まずビデオで、反応の乏しかった認知症の患者がユマニチュードで明るく、元気になる姿を供覧後、技法を教えてもらうので、非常に説得力のある実習になりました。座学に加えてその3倍以上の実習という課程は、プライマリ・ケア検討委員会の伝統だと思っています。

MSWを病院の一部門に位置づけ

―病院医療ソーシャルワーカー研修会の内容を教えてください。
 会員病院が地域のプライマリ・ケアの中核を担う病院になるには、地域における医療・介護連携が不可欠で、メディカル・ソーシャルワーカーを病院の一部門に位置付けることが重要になります。ソーシャルワーカーの責任ある成長を促すため、第1回目の「病院医療ソーシャルワーカー研修会」を2014年2月に開きました。この研修会は、公益社団法人日本医療社会福祉協会との共催で開催しています。
 会員病院は、少子化・高齢化による患者の減少を現場で実感しています。医師がいくら専門性を謳っても、高価な機器を導入しても、患者が来ることが前提です。地域包括ケアという言葉に示されるように、地域のニーズに合った医療を提供しなければ生き残れません。これからの病院は、患者を治療して一件落着ではありません。地域に返す必要があります。それを医師や看護師ができるのかという問題意識がありましたが、その間を埋めてくれるのが医療ソーシャルワーカー(MSW)だと思います。MSWには、患者を地域に返す役割と同時に、連れてきてくれる役割があると思います。当時、全日病のMSWに対する認識は、高いとは言えませんでしたが、病院にとって大事な戦力となるようなMSWを作りましょうと日本医療社会福祉協会と意気投合し、協力を得ることができました。
 最近はMSWだけでなく、看護師・事務長・院長・管理職も参加する多職種の研修に拡大し、病院にとって何が必要かを考える研修会に深化しつつあります。

総合医の育成は待ったなし

―新たな事業として、全日病総合医育成事業が始まりましたね
 医療制度全体の話として、昨年4月に、開始が1年遅れた新専門医制度の下で、総合診療専門医の研修が始まっています。地域医療を支える全日病の会員病院にとっても、臓器別に捉われない幅広い診療ができるプライマリ・ケアを担う医師は必須です。しかし、新専門医制度の総合診療専門医が、地域の我々の病院にまで充足するには、まだまだ時間がかかるでしょう。
 会員病院は、地域に密着した診療活動を通して、少子化・高齢化という社会構造の変化や、医療制度の持続可能性の不透明感などの環境変化を目の当たりにしています。これまでとは異なる対応が必要であることを肌身で感じています。現状の地域医療は待ったなしで、時間的余裕はありません。
 実際の現場では、すでに各領域の専門医として経験を積んだ医師が、同時にプライマリ・ケアを担っています。新たな事業では、そのような医師や、これから地域医療に貢献しようと思っている医師を対象に、専門医としてのキャリアを尊重しつつ、プライマリ・ケアへの対応能力を身につけてもらうことを狙っています。総合医が育つことにより、地域医療への貢献とキャリアチェンジの支援を目指しています。
 通常、専門医資格は卒後6年ぐらいで取得するので、経験6年以上の医師を対象としています。専門分野から一歩を踏み出し、現場で、地域医療を支えたいという気持ちを後押しできる事業になればよいと思っています。
 昨年7月14日に、第1期生の開講式があり、研修プログラムが始まりました。定員は当初40名でしたが、57名の参加となり、関心の高さが伺われました。30代から70代まで、最年長は76歳です。病院を管理する立場での参加であろうと思われます。私の地元である鹿児島県からは、最多の7人が参加しましたが、感想をきくと、概ね好評価が得られており、安心しています。
 全日病総合医育成事業の研修プログラムは、①総合診療e-ラーニング②「診療実践コース」「ノンテクニカルコース」「医療経営コース」の3分野からなるスクーリング③自施設での総合診療実践で構成されます。
 平日はみなさん働いているので、土日を利用して、年12回の参加を想定し、皆勤であれば、1年程度で修了できます。現時点で、皆勤の受講者もいますが、概ね2年程度での修了を想定しています。
 研修プログラムは、検討委員会のこれまでの研修のように、座学と実習をうまく組み合わせたものを作成したいという気持ちがありました。ちょうど丸山先生が、日本プライマリ・ケア連合学会の理事長であり、副理事長の前野哲博筑波大教授とともに連合学会の全面的な協力を得ることができ、実習を重んじた研修プログラムができあがりました。
 組織人としてのマネジメント能力を学ぶノンテクニカルコースを重視しているのも特徴の一つです。現場では、多職種協働のチーム医療が日常化しています。様々な医療従事者が働いていますが、医師がリーダーにならないと患者への医療は完結しません。しかし、大学の医学教育では、組織を管理する技術は教わりません。病院勤務の中で、「OJT」として学んで、なんとかやってきている状況です。
 今後は、病院内だけでなく、地域を含めて様々な関係者と協働する上でも、医師として、リーダーや経営者として、管理能力がますます問われることになります。今回の研修プログラムでは、スクリーニングの中で管理能力を技術(ノンテクニカルスキル)として学ぶことができます。
 全日病総合医育成事業では今年度、第2期生の募集が始まりますが、多くの医師が参加し、事業が発展していくことを願っています。

在宅医療の成功事例を集める

―プライマリ・ケア検討委員会の今後の展望はどうでしょうか。
 認知症、ソーシャルワーカー、総合医の事業をさらに発展させていくことが第一です。加えて、新たに在宅医療に関する議論を始めています。
 「プライマリ・ケア宣言2013」でも、在宅医療は重要な位置付けにありますが、西澤寛俊名誉会長が出席している厚生労働省の全国在宅医療会議から全日病のこれまでの取り組みの報告を求める依頼が来たのが発端です。
 現在、具体的な取り組みを議論している最中で、まずは会員病院の現場の事例を収集して、成功事例あるいは失敗事例を集め、現場での活動の参考になるような事例の整理を行ないたいと考えています。というのは、地域の実情により、望ましい在宅医療の姿は異なるからです。少なくとも、大都市、地方都市、地方の郡市区、医療資源の少ない地域にモデルを分類できるのではないでしょうか。それぞれの地域の特性に合った在宅医療の姿を全日病として、描いていきたいと考えています。

 

全日病ニュース2019年3月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2016年12月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/161201.pdf

    2016年12月1日 ... に関する検討会」(遠藤久夫座長)は11 ... 脳卒中では、標準的治療を普及させ. る
    とともに、発症早期の ... 全日病会長の西澤寬俊委員は、脳卒. 中や急性 ...... プライマリ
    ケアと医師確保の視点から ― .... の認知症研修会(ユマニチュード入門.

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2016年1月1日・15日合併号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/160101.pdf

    5面/. 医政局長. VS正副会長座談会. 「. 本番を迎える医療制度改革. 」 6. ・. 7面/. 四.
    病. 協. 4. 会. 長. 座. 談. 会. 「. 医. 療. 改. 革. 、. 2016. 年. の ..... 欲と周囲の理解と支え
    普及する運動を望んでいる。 常任理事 鉾之原 ... 常任理事 プライマリケア検討委員
    委員長 丸山 泉. ユマニチュードを通して認知症の方にやさしく接. し、プライマリ・ケア
     ...

  • [3] 事 業 報 告 書 決 算 報 告 書

    https://www.ajha.or.jp/about_us/plan/jigyou-kessan_h28.pdf

    2017年3月31日 ... 今年度は①手術室の業務フロー図、②薬剤業務フロー図の検討を行った。 (7) 厚生
    労働 ... 師の特定行為に係る研修制度の普及等に関する研究」(研究代表者:神野正博
    副. 会長)、「 ... 平成28年度は、総合部会を中心に、医療保険・診療報酬委員会
    はじめとする. 8つの委員会 ... (5) プライマリケアに関連する学会及び団体等との連携
    ... (ユマニチュード入門研修会)」を国立東京医療センターの協力のもと実施した。 4. .....
    ⑪ 「病院看護師のための認知症対応力向上研修会」を東京都で4回、大阪府で.

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