全日病ニュース

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【資料】「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」報告書から

【資料】
「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」
報告書から

 「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長=渋谷健司・東京大学大学院医学系研究科国際保健政策教室教授)は前号既報の通り、4月6日に報告書をまとめた。報告書から抜粋して掲載する。
1 新たなビジョンの必要性
医療の在り方は、これからの我が国の社会・経済的基盤を左右するほどの重要性を持つ。医療はそれ自体が社会から独立して機能するものではなく、介護はもとより、まちづくり、生活の万般と有機的に連動する。また、医療が医療従事者だけで完結する時代は終わりを告げ、患者や住民との協働が不可欠な時代に入った。
 医療を取り巻く環境は大きく激しいうねりの中にある。公的財源の制約の高まり、労働力人口の減少、ICT(情報通信技術)の予想を超える速度での進展など、医療システム全体への影響は大きくなるばかりである。だからこそ、今、新たな時代を見通し、目指すべき方向性を輪郭づけた上で、今後の医療提供及び医療従事者の在り方について、道筋を描き出す必要がある。
 医療を提供する側が疲弊することなく、プロフェッショナリズムを高め、住民・患者と協働しながら環境の変化に対応していくためのビジョンが必要となっている。本報告書は、医療政策の基本哲学となるべく、医療従事者の誰もが将来の展望を持ち、新たな時代に即応した働き方を確保するための指針となることを目指して取りまとめた。
2 医療を取り巻く構造的な変化
①需要側の変化:人口構成の変化/疾病構造の変化/患者の期待の膨張
②提供側の変化:働き方改革の趨勢/女性医師・高齢医師の増加/地域偏在
③テクノロジーの変化:AI(人工知能)、IoT 等のICT の進歩/職種間協働の可能性の高まり
3 働き方実態調査の実施と活用
 本検討会では、現在の働き方や将来のキャリア選択に関する10万人規模アンケート調査(回収済:15,677人)を実施した。
 アンケートでは、過重労働や超過勤務が継続している実態が示されている。
 20代の若い医師は、「診療・診療外」の労働について1週間で平均55時間程度の勤務状況にあり、これに当直・オンコールの待機時間(男性16時間、女性12時間)が加わる 。
 特に、常勤医師は、男性で27.7%、女性で17.3%が当直・オンコールの待機時間を除いても週60時間以上の勤務状態にある。加えて、20~ 30代勤務医(常勤)の「当直・オンコール」時間は、「診療・診療外」の約3分の1にも上る 。
 医師から他職種への分担が可能な5つのタスクは、「医療事務(診断書等の文書作成、予約業務)」、「院内物品運搬・補充・患者の検査室等へ移送」、「血圧などの基本的バイタル測定・データ取得」、「医療記録(電子カルテの記録)」、「患者への説明・合意形成」の順で、分担が可能という結果であった。
 これらのタスクを他職種が分担した場合、50代以下の常勤勤務医がこれらのタスクを行うに要する労働時間のうち約20%弱を軽減することが可能である。
 医師のキャリア意識に関しては、年代が高くなるごとに変化し、多様化する。若い医師は、勤務医、開業医、研究教育がほぼ全てであるが、年齢を重ねるに連れて、介護福祉分野や産業医の割合が増えて多様化する。
 地方勤務の意思については、勤務の意思ありとの回答が44%であった。地方勤務をする意思がない理由では、「労働環境への不安」、「希望する内容の仕事ができない」の2つが、どの年代にも共通の障壁となっており、医師の負担を減らし、経験を積むことができる環境の構築が重要と考えられる。
4 新たなパラダイムと実現すべきビジョン
 医療・介護従事者の過重労働が恒常化している状況を直視し、 実効的な変革を推進するには、医療・介護分野が「高生産性・高付加価値」構造へと転換することにより、住民・患者の価値を最大化できる「働く人が疲弊しない、財政的にも、持続可能なシステム」を確立することが必要である。
1)働き方
従来型の医療提供モデルでは、病院では、診療科ごとに縦割り意識が強く、診療科間の連携を促す的確なマネジメントが十分ではなかった。このため、負担の重い診療科では、理不尽な勤務時間・報酬が充てられることもあるなど、医療従事者の自己犠牲によって診療が確保されてきており、女性の復職なども困難であった。
 チームでの医療を進めるには、細分化された業務を各職種が「単能工」的に対応する資格制度・組織文化をベースとしながらも、異なるニーズに的確・柔軟に対応することができ「多能工」的な側面も付加しうる人材育成スキームに改善していくべきである。
2)医療の在り方
医師主導による診断と治療中心の医療から転換し、患者本人の選択と意思が最大限尊重され、適切な役割と責任の分担の下、医師を含む医療・介護・福祉の多職種がフラットに連携して患者・家族の QOL を高める医療に移行することが重要である。生活を支える視点からは、医療・介護は一体として考えられなければならない。
3)ガバナンスの在り方
全国一律の制度設計・サービス提供を志向した従来の構造から脱却し、地域主導で、定期的に医療・介護従事者の需給・偏在対策を含む医療・介護の方向性等が決められ、まちづくりとも連動した医療・介護の基盤整備が行われるような仕組みにしていく必要がある。
4)医師等の需給・偏在対策の在り方
これまでは国が厳格に全国の医師養成数を管理する一方、臓器別診療科に基づく大学医局や学会が、それぞれに独立した方針の下、各地域で各診療科の医師確保・養成を行ってきた。今後は、「住民・患者にとって必要な機能を地域ごとにどう確保するか」という点に着目するべきである。
 本報告書で提示する様々な具体的方策は、医療が「高生産性・高付加価値」構造となり、全体としては、本来医師が行うべき業務に注力できる環境整備につなげるための提言となっている。
 これらの方策を確実に実施していくことで、必ずしも医師を増加させずとも、高齢化を踏まえた患者の多様なニーズにも応えられることとなる。敢えて医師数を増やす必要がない環境を作り上げていくことが重要である。
 長期的な医師需給の在り方を考えていく上では、本報告書に掲げる具体的方策の達成状況やそれぞれの効果を継続的に検証するとともに、定期的に働き方実態調査を実施した上で需給推計を行うことにより、その都度必要な医師数と養成数のバランスを図っていくことが必要である。
 働き方実態調査によれば、多くの医師は潜在的に地方での勤務に魅力を感じ、キャリア形成や生活への支障を来たす要素が除かれれば、地方で従事する可能性が多く秘められていることを意 味する。
 したがって、個々の医師の意向を重視し、モチベーションを引き出す方策をそれぞれの地域において、住民、医療機関、行政等が中心となって講じていくべきである。
5 ビジョンの方向性と具体的方策
1 能力と意欲を最大限発揮できるキャリアと働き方をフル・サポートする
① 個々の医療機関の人材・労務マネジメント体制の確立と支援等
医療機関自身が、必要な人材・労務マネジメント能力を培う、すなわち自助努力と健全な切磋琢磨を尊重することが基本である。
②女性医師支援の重点的な強化
③ 地域医療支援センター及び医療勤務環境改善支援センターの実効性の向上
④ 医師の柔軟なキャリア選択と専門性の追求を両立できる研修の在り方
プライマリ・ケア分野では、大学や市中の大病院だけでなく、小規模医療機関での研修が有効である。
⑤看護師のキャリアの複線化・多様化
准看護師が将来展望を持って、スキル向上とキャリア形成を行えることが重要である。准看護師が円滑に看護師に移行できるような要件の緩和についても検討すべきである。
⑥ 医療・介護の潜在スキルのシェアリング促進
2 地域の主導により、医療・介護人材を育み、住民の生活を支える
(1) 地域におけるリソース・マネジメント
① 都道府県による人的資源マネジメントの基盤づくり
地域医療構想に基づいて、医療機能の集約化や機能分化・連携を進めるとともに、4機能別の病床数だけでなく、提供される専門医療の内容や、専門医、看護師の配置、高額医療機器の配置等についても、ニーズに適合した具体的な数値を設定し、検証する等の方策を講じる。
② 都道府県における主体的な医師偏在是正の取組みの促進
へき地等の地方勤務に伴う負担や生活、キャリア等に与える支障を取り除くには、受入れ側地域の地方自治体、医療機関、そして住民が一体となって自助努力と健全な切磋琢磨、それを支える実効的な環境整備を最大限に行うことが肝要である。
③ 外来医療の最適化に向けた枠組みの構築
都道府県ごとに、将来の外来医療の必要量に基づいた供給体制についての指針を策定する。地域医療構想に外来医療の要素を加えることを含め、検討されることが望ましい。
④ 都道府県における医療行政能力の強化
国の画一的な方針に依存せず、都道府県が、大学医学部や関係団体等との円滑な協働体制を構築し、マネジメントすることが重要である。
(2) 地域を支えるプライマリ・ケアの構築
① 保健医療の基盤としてのプライマリ・ケアの確立
かかりつけ医の診療能力を更に向上させるための研修を推進・拡充していくとともに、今後は、日本専門医機構の認定する総合診療専門医の育成を強化していく必要がある。
② 地域包括ケアの基盤を支える人材養成と連携・統合
看護師やリハビリテーション職などのコメディカル職から介護福祉士や社会福祉士などの介護・福祉職まで、幅広い職種間の基礎教育内容の共通化や単位互換を目指して検討が進められるべきである。
③ 住民とともに地域の健康・まちづくりを支える医療・介護
3 高い生産性と付加価値を生み出す
① タスク・シフティング/タスク・シェアリングの推進
医師-医師間で行うグループ診療や、医師-他職種間等で行うタスク・シフティング(業務の移管)/タスク・シェアリング(業務の共同化)を有効活用すべきである。
 看護師については、特定行為研修制度の養成数を増やすべく受講しやすい研修方法・体制の見直しを進めるべきである。併せて対象となる医行為を拡大し、このような業務を行う能力を持つ人材(例えば「診療看護師」(仮称))を養成していく必要がある。
② 医科歯科連携・歯科疾患予防の推進等
③薬剤師の生産性と付加価値の向上
薬剤師等によるリフィル処方への対応を可能とし、長期に有効な処方せんが一度出されれば、これを提示することで何度も薬を受け取ることができるよう検討すべきである。
④ フィジシャン・アシスタント(PA)の創設
「フィジシャン・アシスタント」の資格を新たに設け、簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理等ができるようにすることを検討すべきである。
⑤テクノロジーの積極的活用・推進
⑥ 保健医療・介護情報基盤の構築と活用
⑦遠隔医療の推進等
⑧「 科学的に裏付けられた介護」の具現化
⑨ 介護保険内・保険外サービスの柔軟な組合せと価格の柔軟化の推進
6 提言の実現に向けて本報告書の提言内容については、単なる将来の青写真に止めてはならない。
 関係審議会等でこの提言に基づいた検討が行われ、実現の見通しが明らかにされるべきである。特に実現に向けては、厚生労働省内に「ビジョン実行推進本部(仮称)」を設置し、5~ 10年程度の政策工程表を作成した上で、進捗管理を行うよう求める。
 医師偏在については、医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会において、本報告書の内容を踏まえ、具体化に向けた検討を行い、短期的な方策を精査し必要な制度改正案を速やかに取りまとめるべきである。その後、働き方調査に基づく精緻な医師需給推計を行った上で、2020年度以降の医学部定員の在り方の検討に着手すべきである。

 

全日病ニュース2017年5月1日号 HTML版

 

 

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