全日病ニュース

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民間病院が地域に根ざした病院の役割を主張

【特別座談会】

民間病院が地域に根ざした病院の役割を主張

今回の医師偏在対策は医療提供の根幹にかかわる改革

猪口 今回の座談会では、武田俊彦医政局長に①地域医療構想の進め方②医師の偏在対策③医師の働き方改革─の3点をテーマに設定し、行政の考え方を聞きたいと思います。

地域医療構想の進め方 合意形成が都道府県の役割

猪口 始めに、地域医療構想の進め方です。地域医療構想の実現に向けた動きが本格化し、地域の病院に対しては、医療機能の分化・連携を推進するための議論が求められていますが、まず、医療機能の中で「回復期」に対し、しっくり来ないところがあることを指摘したいと思います。
武田 昨年、事務連絡(9月26日)を出していまして、現場に多少混乱があるということで、誤解を解くというか、正確に理解して頂くために回復期の考え方を示しました。特に、病床機能報告制度の医療機能は診療報酬と直接リンクしないことや、回復期を選んだからといって急性期の診療報酬を算定できないことはないことなどを説明しています。
 「地域医療構想に関するワーキンググループ」でも検討し、昨年12月に「議論の整理」をまとめています。一部の誤解はこれで解けると思いますが、必要があれば、さらに考え方を整理し、周知したいと思っています。
猪口 我々はある程度わかっているつもりですが、一部の地域や行政に理解が足りないと感じることがあります。
 例えば、回復期が足りないので、急性期の基幹病院が、急性期病床を回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟に転換し、それに地域医療介護総合確保基金を使う事例などがあります。それは少し違うのではないでしょうか。
武田 公立・公的病院が改革プランを作り、それをもとに調整会議などで議論することになっています。しかし公立・公的病院が必要な機能を先に整備してしまい、残った病院はどうするのか、となるのは、地域医療体制を再構築するという意味で問題なしとはしません。そこは役割分担があり、二次医療圏で一つの病院がすべての機能を持つのではなく、地域にあまねく必要な医療を提供するために、何がその地域で最適な体制なのかを、地域として考える必要があります。
 地域包括ケアを推進する上で、地域に根ざした地域密着型の病院が必要です。それを含めて、誤解のないように地域の議論が進むよう、注視します。
猪口 地域医療構想における知事の権限も整理されていますが、知事は地域医療を考えるときに、県立病院を優先するのではとの懸念があります。
武田 都道府県が主体となり地域医療を確保することと、都道府県が病院の運営主体であることは、立場が異なることを認識して頂く必要があります。今我々が検討している医師偏在対策の改正法案でも医療関係者が幅広く参加する地域医療対策協議会に様々な仕事を集約させる予定です。都道府県の役割は、自分だけで考えて進むのではなく、場をセットして、関係者を巻き込んで合意形成を図ることです。それが都道府県に医療政策をまかせる本当の意味です。
 例えば、国も国立病院のことばかりを考えているのではなく、中医協のように、いかに関係者の合意形成を得るかで苦労しています。都道府県も同じように、一部の声だけでなく、幅広い合意形成に努めてほしい。民間、公的、公立、独立行政法人など様々な主体があるのが、我が国の医療提供体制の際立った特徴ですので、それを踏まえた議論が必要です。民間病院にも積極的に声を上げてもらい、場合によっては、民間病院も改革プランを作ってもらうなど、建設的な議論が出てきてほしいと考えています。
猪口 公民のイコールフッティングを主張してきたので、我々も自分たちの考え方や立ち位置をしっかりと示さないとまずいなという気持ちがあります。
武田 すべての民間病院に改革プランを作ってもらうことは考えていません。ただ地域によっては率先して取り組んでほしい病院もあり、期待します。

調整会議の議論に温度差 病院団体の役割に期待

猪口 全日病としても、民間病院が地域で担う役割を示すよう各支部に働きかけたいと思います。
 病院の役割を決める場である地域医療構想調整会議については、2年間程度で集中的に議論することが求められました。しかしまだ地域に温度差があるのが現状です。
武田 今年が2年目で突っ込んだ議論が行われることを期待しますが、確かに地域差があります。議論を進める上で、例えば、調整会議の下に小さな会議体を作ったところは比較的早く議論が進んでいると聞いています。元々手間暇がかかる問題なので、急に人を集めて会議を開いて、合意して下さいといってもそう簡単には進みません。
 ただ諸般の事情を考えると行動するのは早い方がいいと思います。先に延ばしても状況は変わらないか、場合によってはもっと厳しくなります。早めに方針を出せれば、それを基金で応援できます。我々が求めている2年間の集中的な議論は、それをやらなければ絶対に不都合が起きるということではありませんが、先に延ばせばよい議論ができるかというとそうではないと思います。
 その意味では、昨年は温度差があったかもしれませんが、今年は各地で少し温度を上げて、取り組んでほしいと思っています。
猪口 ある程度情報を得ている病院の代表者には理解が進んでいるのですが、そうでない方々もいて、議論がかみ合わないことがあります。調整会議よりも小さい単位で話し合わないと、合意形成が進まないのはその通りです。
武田 場合によっては、地域の病院が全部集まる前に、民間病院なら民間病院だけで議論することがあってもよいと思います。公立・公的病院の方が民間病院より情報が入りやすい状況にあり、母体が都道府県であれば、都道府県からの情報が流れやすい。民間病院に国や県から指示が飛ぶようなことはないので、どうしても差が出てきます。
 そこは病院団体に一定の役割を期待するところです。

地域包括ケアの推進に民間病院の力が求められる

猪口 全日病では昨年10月に、全国各地の支部長や構想会議に関わりのある会員と議論しました。それこそ千差万別の意見があり、「回復期が足りないというので回復期リハ病床をこれだけ作った」といった話が地域でいまだにあることなどが報告されました。我々も努力しますが、誤解はまだあります。
武田 回復期というのは法律で名前がそうなっているのですが、現実に必要なのは地域包括ケアの推進であり、そこに民間病院が果たす役割があります。
 回復期リハと狭く捉えず、地域包括ケアの推進で、多様な機能を持つ病院が求められることを理解して頂きたいと思います。
猪口 地域をみると、ある程度の過疎地域で、構想区域と二次医療圏が同じで、人口が7~8万人ぐらいだと話し合いがうまく進む印象があります。逆に、大都市は難しい。東京は区単位だと事情がわかるのですが、二次医療圏だと3~4区が一緒になり、人口は150 ~ 200万人、病院も60 ~ 70となり、これではなかなかまとまりません。各区で区域を作ることや、いっそのこと、23区と多摩地区で分けることなどを主張したのですが、都は結局二次医療圏で構想区域を設定しました。案の定、議論はあまり進んでいません。
武田 医政局で仕事をしていて本当に思うことは、地域差が大きいということです。マクロの議論に意味がないとは言いませんが、地域の事情に落とし込まないと医療政策の意味や必要性、また、何をやるべきなのかがわからなくなると痛感します。
神野 地域医療構想の実現に向けた動きが進み、その結果として、公立・公的病院の病床が減ったかという結論がそろそろ出てきます。急性期の一般病床は減らすが、地域包括ケア病棟を作ったために、病床数は全く減らないとなると、診療報酬のしわ寄せが中小病院に行くのではないかと心配しています。
 都道府県の合意形成に取り組んだり、民間病院が集まるミニ会議を開催したりしても、地域では大学病院の存在が大きくて、中小病院の主張が通らない状況があります。ぜひ国が方針をしっかりと決めて、それを周知してほしいと思っています。
猪口 県によっては大学病院が昔から医師の供給源になっていて、逆らうと何もできなくなります。県もそこをみている状況があると聞きます。
武田 そのような実態は否定し難いものとしてあります。ただ我々としては、大学病院にも理解を求めますが、大学病院の立場もわかります。医療機能が集約化され、機能分化が進めば医師を派遣しやすいという面もあり、その意味でも、民間病院から地域に根ざした病院の役割を主張して頂きたい。現状維持ではなく、地域の病院がどう変わっていくかというコンセプトで議論したいと思っています。

効果的な医師偏在対策 認定医師のインセンティブに期待

猪口 医師偏在対策のテーマに移ります。医師需給分科会が第2次中間報告をまとめましたが、対策は多岐にわたります。認定医の話、医師養成課程での対応、初期臨床研修の見直し、専門医制度などです。
神野 医師偏在については、様々なグループが多様な意見を持ち、若手医師グループも積極的に発言しています。
 たいへん難しい課題で、ここは武田局長に強力なリーダーシップを取っていただかないとなかなか解消されません。
武田 エールを送られると、肩の荷が重い(笑)。医師偏在対策は、様々なことが同時併行で動いています。一方で働き方改革、一方で偏在対策、一方で養成の問題。たまたまそういう時期に当たり、毎日懸命に考えています。ここまで大きく医療提供の根幹部分の改革をやるのは、誠に稀有な状況です。
 歴史的に偏在対策はずっと言われてきた割には、総合的な対策が取られてきませんでした。○○センターを作ったとか、へき地の支援を考えますという形はあります。しかし、個別対策だけでは限界で、全体的、またはシステムとして必要な地域に必要な医師を提供できるよう医政局、厚労省全体の問題として考える必要があります。
 とかく、医師は公務員のようなものだから辞令一本で派遣すればいいじゃないか、という考え方から、これは国が口を出すべきでないという立場もあります。しかし、幅広い視点があると言うばかりでは、過去何十年対策を取れなかったことの繰り返しです。
 今できることについて、きちんと合意を取り、その範囲でまず第一歩を踏み出すことが大事です。その第一歩は「一本足打法」ではなく、多様なものを組み合わせる。去年から延々と考えているのですが、現時点で言えるのは、そういうことかな、と思っています。
神野 医師数については、東京は満杯になってきて、その後、千葉、埼玉にもじわっと広がってきたけれども、全国に広がるには、まだバケツに水を入れなければならない状況です。
武田 若い世代の考え方は、へき地に行くより都市部志向のマインドが強まっていると聞きます。
神野 この問題で今までなかった話として、「医師が少ない地域での勤務のインセンティブとなる認定制度の創設」が出てきました。一つの視点として、私たちも大いに期待しています。ただ、医師のマインド、価値観にどう踏み出したらいいか、難しいところです。
武田 専門医を志向するだけでは多様な機能に応えられません。専門医志向だけでなく、もう一本医師に期待されている役割、それを果たした医師を評価する仕組みが必要です。それが今回の認定医の発想です。名前をどうするかも重要で、いまだに悩んでいます。
 基本的には、社会に貢献した医師にどれだけの優遇策を設けるかが重要ですが、国として認定制度を作れば、様々な使い方があると思います。例えば「赤ひげ大賞」のように、国が評価した医師をみんなで盛り上げるのも一案です。

 

全日病ニュース2018年2月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 地域医療構想・病床機能報告における回復期機能について(厚生労働省 ...

    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2017/171003_3.pdf

    2017年9月29日 ... 厚生労働省医政局地域医療計画課. 地域医療構想・病床機能報告における回復期機能
    について. 地域医療構想における将来推計は患者数をベースに将来の病床の必要量を
    出してい. るのに対し、病床機能報告制度では様々な病期の患者が混在する病棟
    について最も適す. る機能1つを選択して報告する仕組みである。例えば回復期機能は、
    急性期を経過し. た患者への在宅復帰に向けた医療やリノヘビリテーションを提供する
    機能」を指すもので. あり、当該機能を主として担う病棟が報告されるもので ...

  • [2] 地域医療構想に関する意見交換会を開く|第904回/2017年10月15日 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20171015/news06.html

    2017年10月15日 ... まず織田正道副会長が、厚生労働省の地域医療構想ワーキンググループの検討状況を
    説明した。全国の341の構想区域について、2015年病床機能報告の病床数と2025年
    における病床の必要量を比較した資料によると、回復期は336区域で病床不足(病床
    機能報告<病床の必要量)である一方、急性期では328区域で病床過剰(病床機能
    報告>病床の必要量)となっている。 入院基本料と病床機能報告の関係をみると、13対
    1、15対1は急性期で報告している病院が多いが、厚労省は、13対1、15 ...

  • [3] 厚労省 高度急性期75%、急性期78%、回復期90%を見込む|第841回 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20150215/news04.html

    厚労省 高度急性期75%、急性期78%、回復期90%を見込む. 全日病ニュース・紙面
    PDF(2015年2月15日号) PDFリンク. 厚労省高度急性期75%、急性期78%、回復期
    90%を見込む. 【地域医療構想策定のガイドライン】 GL案は最終局面。全国知事会は
    構想実施に懸念を表明. 厚生労働省は2月12日の「地域医療構想策定ガイドライン等
    に関する検討会」に、これまでの議論をまとめたガイドライン案を提示した。 この日は、
    GL案に先立って、2025年の医療需要(患者数)を推計する基本的な考えとそれを病床
    数に換算 ...

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