全日病ニュース

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経営ビジョンを示し、持続することが大切

【女性経営者座談会】

経営ビジョンを示し、持続することが大切

介護のイメージを変えないと根本的な解決にはつながらない

医療・介護の人材を確保するために何が必要か

石川 スタッフの確保で苦労はありますか。
宮地 やはり介護スタッフの確保はたいへんです。当院は神戸の東端にあって、地価・家賃が高く、流入する人はいるけれど、働く人が少なくて、ヘルパーさんは集まりませんね。区内の若年人口は12%ぐらいです。若い人たちは介護に来なくて、もっと楽にお金をもらえる仕事に行きます。また、医師数は多いのですが、選べる病院が多いせいか、良い医師の確保は難しいです。
石川 新病院をつくるときに病床が104床増えたので、医師の確保はたいへんでした。私の病院では近畿圏から医師に来てもらっていて、そのほとんどが単身赴任です。単身赴任手当に加え、住居には家電製品を備えて、ご家族が年に1、2回遊びに来ていただく費用も福利厚生で出しています。
 人材確保に関して、外国人を活用していますか。
宮地 当院の関連施設では、ベトナム人の方に来ていただいています。先日も施設長がベトナムの大学に面接をしに行って、さらに拡大することになりそうです。ただ、外国人が増えるとその人の面倒を日本でちゃんとみていけるのかという不安はあります。
石川 言葉の問題がありますね。私の病院では、フィリピンの看護師に来てもらったことがありますが、ほとんどが日本語の研修で終わってしまった。
 もう少し資格を取りやすくしたら、もっときてくれると思います。いま介護職では、フィリピンの人が10人くらいいます。日本で結婚した人もいて、彼女らのネットワークはすごい。明るくて、ホスピタリティがあります。
室谷 外国人の活用もいいと思いますが、介護に対するイメージを変える必要があると思っています。介護の仕事に対して、中高生がどんなイメージをもっているのか調べたことがありますが、最初から介護は選びたくないという答えで、ショックでした。
 介護はどういう仕事なのか、どこにやりがいがあるのか、何が楽しいかなどを説明してイメージを変えないと、単に来てくださいと言うだけでは無理です。夏休みに仙台や東京の中高生に来てもらって介護の現場を体験してもらったことがありますが、現場を知ることでイメージが変わりますね。介護のイメージを変えて、介護の仕事の評価を上げていかないと、外国の人に来てもらっても根本的な解決にはつながらないと思います。
石川 おじいちゃん、おばあちゃんと暮らしたことのない若い人が多いのではないですか。今は核家族で、お年寄りと話す機会がないので、お年寄りと暮らすイメージができない。私の病院では、イベントなどを通じて、小学校や保育園の児童と高齢者の多世代交流に取り組んでいます。本来、こういうことは行政にやってもらえると、お年寄りのことを身近に感じられるようになると思います。

生活を支える急性期医療へ転換する

小川 医療・介護に対するイメージを変えるには私たちの働きかけも大事です。特に急性期の医療が変わる必要がある。「生活支援型急性期病院」で目指すのは、入院した時から退院後の生活を想定して、治療や支援をすることです。「退院はゴールではなく、スタートだ」と言って、看護師も少しずつ理解してくれるようになりました。急性期からリハビリをして、嚥下の訓練をして退院支援を行う。単に医療や看護をやっていた時より、スタッフが生き生きとして、やりがいを感じてくれています。
 その中で、食べられなくなったことをどうとらえるかという視点が重要です。点滴しますか、それとも自然な形にまかせますか、ということですね。
 このテーマで勉強会を開いたことがあって、そこに地域の老健施設の職員を招いたんですが、皆さんすごく影響を受けたようです。その後、自分たちでも取り組もうという動きが出ています。
 食べられなくなったら入院ということではなく、最終段階の生と医療介入について考えてもらうことが大事です。
宮地 私たちは慢性期ですから、その人らしい終末期をどう実現するかを考えています。急性期から転院して来て、食べられなくなった時の対応について、家族に話をしていますが、なかなか受け入れられない。
石川 胃ろうが減っているように、患者の意識が変わっています。それと同時に医療者の意識改革は非常に大切です。本当に必要な人には医療を行いますし、食べられなくなってもリハビリ病院で訓練したら食べられるようになることもあります。患者が在宅でどうしたいのか、その生活を支える医療に転換する必要がある。医療のあり方を突き詰めて、医療者と患者が相互に理解し合わないと難しい時代なのだと思います。

変わろうとしている急性期病院は増えている

小川 私を含めて急性期の人は、在宅の力や患者自身が持っている生きる力をあまり知りません。だから、点滴など安易な方法に行ってしまう。でも、変わろうとする急性期の病院は増えています。最終段階の医療について説明しても、家族が簡単に「はい、わかりました」とはならない。でも、相手先の施設の看護師やケアマネ、介護職が、どんと、静かに見守るとご家族も安心、理解する。我々急性期が、施設側の味方になるのです。このやり取りをする中で気付いてくれる人はいて、その後の紹介の仕方が変わります。施設間のコミュニケーションの中身がゆっくりとですが、変わってきている。そういう医療職のかかわりによって、地域の人たちの医療・介護に対する意識も変わると思います。
石川 急性期の患者を集めるのは難しくなって、ベッドの稼働率を維持できなくなっている。患者の生活を支える病院に転換する意識改革が大切です。
小川 そういう意味では、東京の大学病院は遅れている。
石川 いや、地方の大学病院も同じですよ。
小川 医者を教育する部門が一番遅れていると思う。地域の会議に出ても、ちょっとずれているなと感じることが多いです。
宮地 地域医療の講座を持っている大学病院は少ないですね。
小川 東京の大学病院には地域医療のフィールドがありません。でも、その必要性に気付いて、どの医療機関に行けば教えてくれ、そこと手を組もうという視点と姿勢があれば違うのではないでしょうか。
室谷 私たちの地域は、開業医の数が減っていて、医師会もかつての医師会と違って優しくなっていて、開業を歓迎しています。今の60歳くらいの医師が引退したら、どうなるのかという不安があります。競争している場合ではなくて、残された者で、どうやって切り抜けていくかを考えなければならない。そういう中でいかにいい医療を続けていけるかで頭がいっぱいです。
 一つショックだったことがあります。
 給食の材料を競争入札にした結果、大手のスーパーが残り、小売り業者が負けてなくなってしまった。近くにあって歩いて買いにいける店がなくなって実際に困るのは地域の人で、自分で自分の首を絞めたようで、何をやったのだろうと思っています。縮小していく地域の中でいろいろな職業の人とつながりながら、地域を存続させることを考えています。
宮地 それは私たちも同じです。その地域で共有できる価値を見つけて、自分たちの持てる力を発揮し地域の人、他業種の方と一緒にやらないと生き延びることができない。地域活性化は常に考えています。
小川 都会も同じで、あふれる需要に一人では対応しきれないので、診療所の先生やケアマネの力を借りなければならない。そのためには、相手にとってどうかという視点が大切ですが、大学病院など大きなところでは意外と見えていなくて、結構失礼なことを言ってしまいます。例えば、ケアマネの能力を批判したりしますが、ケアマネが担う部分があるから成り立っているのであって、ありがたいと思わなければいけない。
石川 医療職は全体に余裕がなくて、周囲が見えないところがありますね。
 医師に問い合わせると、「忙しい時にこんなことを聞いてきて」と言って、そこでコミュニケーションが途切れてしまう。そこで、去年から院内の情報共有を一部LINEに変えてみました。
 電話だと医師に言いにくいことも、LINEならスムーズで医師からも「OK」のスタンプで意思疎通できて気が楽になると看護師やケアマネに好評です。医師も電話が減って余裕ができたと喜んでいます。みんなで共有できるし、働き方改革のちょっとしたツールになります。

働きやすい職場をつくるために事務部門の強化が必要

石川 そろそろまとめに入ります。最近、経営について思うことは、ビジョンや思いが大切だということです。ビジョンがあるから一緒に頑張ろうというスタッフが集まるし、患者に自分たちのやろうとしていることが伝わらないと選ばれません。ビジョンを持ってブレずに持続していることに対して共感している方がいるから病院を続けられると思っています。
小川 病院を引き継いだとき、事務部門を強くしなければと痛感しました。
 しょせん私は医師です。人事や企画、広報を担う人材に組織として投資する必要がある。そんなに事務職を雇って大丈夫かと思う医療職もいると思いますが、働きやすい職場にするために必要だ、とトップが判断しなければなりません。
石川 最後に全日病に望むことを話してください。
宮地 全日病は中小病院のことを考え、発信してくれていると思います。また、内容のある研修が多いけれど、東京中心なので、ぜひ地方でもやってほしい。
 地域の安い会場をあっせんしたり、病院の施設を使ってもいいですね。地方巡業のように出前研修を考えていただきたい。会員も増えると思います。
小川 全日病は、先輩の方々が努力された結果、国レベルで認知されるようになって発言力もある。これはすごいことです。自らの努力と実績に裏付けられた主張をすることで、一目も二目も置かれるようになった。民間病院は本来こうあるべきだ、と言い続けてきた賜物です。これを続けていくことが必要で、そういう協会であり続けていただきたい。
室谷 病院経営の当事者の情報をもらえるのが私は一番ありがたいですね。
 経営者は孤独だと言われますが、相談できる場があるだけでも頑張ろうという気持ちになれる。モデルがあると、ヒントが得られて勉強になります。
石川 話は尽きないのですが、この辺で。みなさんありがとうございました。