全日病ニュース

全日病ニュース

事故調査制度 運用上の課題ごとに一致点と検討課題を中間報告に整理

事故調査制度 運用上の課題ごとに一致点と検討課題を中間報告に整理

【診療行為関連死の調査手法に関する研究班】
西澤会長「院内調査による原因究明が基本。報告書は責任追及に繋がらない記載とする」

 西澤寛俊全日病会長を研究者とし、28人の研究協力者からなる2014年度厚生労働科研「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班」は、10月14日に検討結果の中間報告(議論の整理)をまとめた。
 西澤会長は10月23日の記者会見で中間報告を発表、全日病HPに掲載した。
 西澤研究班は来年3月報告に向けて、残る課題の具体化に努める。厚労省は、15年10月に施行される医療事故調査制度運用のGLを策定するが、研究班の報告はその参考に供される見込みだ。
 「議論の整理」は、医療事故調査制度の骨格にそった検討すべき分野とテーマごとに、(1)検討された課題、(2)これまでの議論の方向性、(3)その他の意見、(4)残された検討課題、に分けて整理。研究班で集約された考え方を「これまでの議論の方向性」にまとめる一方、集約にいたらなかった意見と論点は「その他の意見」に併記した。
 会見で西澤会長は、「この制度の目的は、責任の追及ではなく、予期しない死亡に対して院内調査で原因究明を図り、再発防止策を探ることにある。そのために、報告書や遺族への説明等も当事者は匿名とするなど責任追及の要素を排除する方向で考えている。研究班には患者側も参加しており、報告は医療側と患者側の共通した考えを踏まえてまとめられる」と説明した。
 その上で、「3月までに検討すべき課題が明らかになった。残る期間に議論を深化させ、医療人と国民の納得が得られる報告としたい」と語った。

診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班「議論の整理」(要旨)

Ⅱ. 医療事故調査制度の基本理念・骨格について
1. 医療者の取組方針
●これまでの議論の方向性本制度は、医療の安全確保を目的として、医療事故の再発防止に繋げることであり、そのために、医療者の自律的な取り組みとして医療事故の調査・分析を行うものである。事故発生当該病院等が主体的に院内事故調査を適切に実施することが、医療の質向上と安全確保に繋がるため、院内事故調査の実施体制の構築が重要と考えられる。医療事故の調査の基本は事実経過の的確な把握であり、そのためには、事故発生(インシデント)が適時、適切に報告されることが必須である。その前提として、報告者の非懲罰性の確保が重要である。また、医療者が事故の概要を遺族に適切に説明するよう努めることが重要である。
3. 訴訟との関係
●これまでの議論の方向性本制度は、紛争処理とは切り分けて原因の調査と再発防止策に繋げることが目的である。あくまでも医療の質の向上による安全確保のために医療界全体が一致して取り組みつつ、医療機関が調査をしっかりと行い、遺族に説明することが必要である。
4. 再発防止の考え方
●これまでの議論の方向性適切な原因分析により再発防止策が医療現場に定着するような仕組みにすべく検討を進めることが必要である。具体的には、ヒューマンファクターおよびシステムエラーに着目した再発防止策を検討することとしてはどうか。医療機器や薬剤などの物そのものが原因の場合も検証することが必要と考えられる。
Ⅲ. 医療事故ガイドラインの具体的な事項について
1. 医療事故の報告等に関する事項について
1)医療事故の考え方について
●これまでの議論の方向性
i )医療事故調査の標準化のための具体的な報告基準、例示等の考え方
 今般の制度で医療事故調査の対象となる「医療事故」の範囲に関して、まず、「提供した医療」については、「医療」をどこまでとするかを検討する。「医療を伴わない管理」は医療事故調査の対象とせず、「医療の中の管理」は対象に含まれると考える。当該「医療」を行ってから死亡するまでの期間について、何らかの目安を示す必要があると考える。「死亡又は死産」の「死産」については、死亡と同様に、「医療に起因する」上での話であり、「死亡」と同じ考え方で良いと考える。「予期しないもの」の考え方については、様々なご意見があったため今後さらに検討する。
ii )報告すべき医療事故の決定プロセスの標準化について
 今般の制度では、事案が発生した際、まずは各医療機関の管理者が組織として、その事案が報告すべき医療事故に該当するかどうかを判断することとなる。しかしながら、小規模医療機関(診療所、助産所等)では医療関係者の数や事案経験数も少なく、判断することが難しい場合もあると考えられる。したがって、報告すべき医療事故の判断の過程において、支援団体の支援や、医療事故調査・支援センター(以下「センター」という。)への相談が必要となる場合があると考えられるが、その際の支援団体やセンターの関与のあり方については、さらに検討が必要である。
●残された検討課題
・報告の対象となる「医療」の範囲
・「医療」を行ってから事故発生・死亡までの期間の具体的考え方
・「予期しないもの」の考え方
・医療事故の決定プロセスにおける、支援団体やセンターの関与のあり方
2)医療事故の報告及び遺族への説明事項等について
●これまでの議論の方向性
i )病院等からセンターへの報告事項について
 医療事故が起きた際、医療機関からセンターへ最初に報告する事項については、院内事故調査を開始する前の段階であり、不明な事実が多いことを踏まえて、現在行われているモデル事業や医療事故情報収集等事業での報告事項を参考にしつつも、必要な事項についてさらに検討することとする。
ii )遺族への事前説明事項について
 医療事故の報告に当たり、医療機関が遺族に説明する事項については、上記の「センターへの報告事項」から、個人が特定できる情報等を除いたものとして整理することとする。また、制度の概要に加え、解剖の必要の有無についても、遺族に説明することが必要である。
●残された検討課題
・過去の事業の届出様式を参考に本制度において必要な事項の整理
・センターの報告受付体制(24時間とする等)
・センターの報告受付方法(書面or電話orウェブ上など)
・死亡から報告までの期限(目安)
2. 院内調査に関する事項
1)医療事故調査項目について
●これまでの議論の方向性
i )医療事故調査の調査項目について
 医療事故調査の調査項目については、モデル事業での調査項目を参考とする。医療事故では、点滴やカテーテルなどを抜去、廃棄してしまうと調査に支障がある可能性があるため、そうした状況の保全にも留意する。
iv)調査期限(目途)について
 調査期限について、調査はなるべく短期間で行った方が良いとの意見もあった。個別の事例によって調査に必要な期間は異なるが、一応の目安としての調査期間を検討することとする。
●残された検討課題
・調査項目のみならず、その評価の手法
・解剖や死亡時画像診断を必要とする場合の考え方(状況や実施時期等)
・解剖や死亡時画像診断を必要な時に実施できる体制の構築
・具体的な調査期限(目安)2)支援団体の支援について
●これまでの議論の方向性
i )支援の内容について
 院内調査の質を高めるためには、支援団体による支援が重要である。支援団体が行う支援は、調査の支援や、情報を分析・評価するための評価の支援など複数のものに類別化されるのでそれぞれについてさらに検討する。国民から信頼されるためには、公平性・中立性・透明性が担保されることが必要である。  実際の支援に当たっては、医療現場の実態に即しつつ、高い専門性を持つ者からの支援が必要と考える。  地域での支援団体は、職能団体、病院団体、大学病院などで構成されることが想定されるが、各地域の実情にあわせ、関連する様々な団体が支援を提供し動きやすいように、連携することが現実的である。  また、都道府県を越えた、広域の連携も可能にする体制が望ましい。支援を受ける医療機関の側からみると、医療事故調査を円滑に実施するためには、支援団体の支援を受けるための窓口はある程度まとまっていることが望ましいことから、各地域で支援団体同士が十分連携し、支援窓口の設置や必要な担当者の配置などの体制を構築していくこととする。
●残された検討課題
・支援の類別化とそれぞれの支援のあり方(センターと支援団体の役割分担)
・地域間における事故調査の内容及び質の格差が生じないような各地域での支援のあり方(標準的な支援のあり方を示すかどうかを含む)
・各地域の複数の団体間の連携と窓口のあり方
3. 院内調査結果の報告のあり方について
1)院内調査結果報告書のあり方について
●これまでの議論の方向性
 本稿でいう「報告書」とは、院内調査終了後に、最終的に外部(センター、遺族)に対して提出するものを指すこととする。また、その作成目的は医療事故の再発防止であり、個人の責任追及のためのものではないことを基本的な考え方とする。そのため、個人の責任追及に繋がらないようにするための記載事項を検討する。  記載内容については目的、事実の概要、医学的評価、結論などの事項ごとに整理した上でさらに検討する。  また、調査を行った結果、再発防止策が見出せない事案である場合、又は再発防止策の検討に時間を要する等、院内事故調査終了の段階で直ちに再発防止策が明確にならない場合があることも踏まえ、再発防止策は院内調査報告書に必ずしも記載できるとは限らないことに留意する。但し、各医療機関は、再発防止のために継続的な検討と対応を行うこととする。
●残された検討課題
 報告書の記載事項、記載方法
2)遺族への説明のあり方について
●これまでの議論の方向性
 前節の「1)院内調査結果報告書のあり方について」の議論を踏まえた上で、遺族への説明のあり方についてさらに検討する。
●残された検討課題
遺族への説明事項・説明者・説明の場
4. センター業務について
1)院内調査に関する事項について
●これまでの議論の方向性
i )院内調査結果の整理・分析について
 医療機関が、院内調査報告書完成前に、報告書の記載事項に漏れ等がないかをセンターへ確認を求めることができるような体制を検討する。センターが整理・分析する事項については個別事例だけではなく、集積された事例を、その内容や背景、要因等について類別化するなど、分析することが有効であると考えられる。
 検討に当たっては、現在、日本医療機能評価機構で運営されている医療事故情報収集等事業など、既に行われている事業で得られた知見をもとに検討する。
●残された検討課題
・センターが整理・分析する事項
・方法(当事者からの事情聴取の実施有無を含む)
・整理・分析結果の医療機関への報告方法
・整理・分析結果の再発防止への活用方法
2)センターが行う調査に関する事項について
●これまでの議論の方向性
 院内事故調査の終了後に、センターが調査する場合は、院内事故調査により記録の検証や(必要な場合の)解剖は終了している。したがって、新たな事実を調査するというより、院内事故調査結果の医学的検証及びヒューマンファクターや医療機器などの物の観点からの検証を行いつつ、現場当事者への事実確認のヒアリングや、再発防止に向けた知見の整理を主に行うことが考えられる。
 一方で、院内事故調査の終了前にセンターが調査する場合は、院内事故調査を行う医療機関と連携し、必要な事実確認を行うことが考えられる。なお、センター調査の申請期限については何らかの目安を設ける必要がある。
●残された検討課題
 調査項目について(①当事者からの事情聴取の実施の有無、②報告書で提言された再発防止策の医療機関での取り組みの有無、③当該医療機関の医療安全管理体制について、を含む)