全日病ニュース

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災害時のBCP研修会を実施

災害時のBCP研修会を実施

【全日病】
地域の医療を守るため迅速な復旧を目指す

 災害時のBCP研修会が9月10日に全日病会議室で開かれた。60人が参加して大規模地震を想定した模擬訓練を実施。災害時に医療を継続するためのBCPについて実践的に学んだ。
 4月に発生した熊本地震は、強い揺れを伴う地震が頻発し、前例のない地震として危機対応の重要性をあらためて実感させた。災害時の事業の継続と復旧を迅速に遂行するために作成する計画がBCP(Business ContinuityPlan、事業継続計画)だ。全日病は、AMAT 研修をはじめ、災害への対応力を高めるための研修を行っているが、今回はじめて富士通総研の協力を得てBCPの研修を実施した。
 挨拶した神野正博副会長は、「いざという時の対応としてのBCP だけでなく、普段から備えるBCM(BusinessContinuity Management、事業継続マネジメント)を考えなければならない。BCMは、病院の経営改善につながる優れたツールだ」と述べ、災害に強い組織づくりを呼びかけた。
なぜBCP が必要か?
 研修会は、①BCPセミナー、②模擬訓練、③BCP策定ミニワークショップの3部構成で実施された。
 第1部のセミナーでは、富士通総研BCM訓練センター長の古本勉氏が、BCP が求められる背景について解説した。「過去に比べ、現在の危機対応では、スピードが求められるようになった」と古本氏。
 時間をかければいつかは復旧することができる。しかし、災害時において医療機関は、地域住民の医療を確保するために迅速な復旧が求められる。危機に対応するスピードを確保するために、事前の準備としてBCに対する関心が高まり、東日本大震災以降、BCPを策定する病院が増えている。
 防災とBCPの違いは何か。防災が人命を守るための取組みであるのに対し、BCPは重要業務を早期に再開するための取組みだ。例えば、火災避難訓練は、人命を守るための誘導や避難が目的であり、避難後のことは検討しないが、BCPは早期に医療を再開することが目的であり、そのための事前対策や手順、体制を定めるものだ。
なぜBCPが必要か?
 続いて、全日病会員の岩砂病院・岩砂マタニティの田中利典氏が自院の取組みを紹介した。岐阜県にある同病院は、産科を中心とする132床の病院で、年間900を超す分娩を扱う。
 同病院は、東日本大震災をきっかけに、2012年8月にBCPの策定を開始。その後、岐阜県BCP策定支援事業に参加してBCP を完成させた。
 BCP策定のポイントは、発災から時間経過に伴って発生するニーズを考え、「いつまでに」「どんな状態にするか」を決めることだ。これをミッションと定義し、ミッションの遂行に向けて必要な手順を検討する。
 田中氏は、産科病棟におけるBCPの具体例を説明した。スタッフが少ない時間に災害が発生するとリスクが増すことから、まず深夜帯を想定したBCPを立てた。発災から1時間くらいで、陣発した妊婦が来院する可能性があることから、発災の60分以内に分娩ができる状態にするとともに、緊急産科外来に対応できる状態にすることをミッションと定めた。そのミッションを達成するために必要な行動をリストアップし、優先順位をつけて整理して行動手順を決めていく。それを産科病棟(深夜帯)のミッションシートとしてまとめた。
 このようにミッションベースで考えることのメリットとして田中氏は、①手順だけでなく時間を意識することで、行動に優先順位づけができて無駄な動きがなくなる、②ミッション=ゴールのイメージを共有することで、職員のベクトルが同じになり、手順通りにいかなくても臨機応変に対応できると説明した。
 BCPは策定して終わりではなく、組織に浸透させることが大切だ。災害の現場でマニュアルを読み返すようでは早期復旧はできない。「組織に浸透させるためには普段からの教育・訓練が欠かせない」と田中氏。このため計画を立て、定期的に訓練を実施している。訓練を通じて明らかになった課題は、BCPを見直して改善していく。
 訓練を通じて他部署との連携がよくなり、日常業務の改善につながっているほか、職員が病院を“よく見る”ようになり、組織風土の変化につながっている。「BCPの取組みから多くの効果が生まれ、病院を強くすることにつながっている」と田中氏は述べた。
 同病院は、医療機関として唯一、レジリエンス認証を取得している。レジリエンス認証は、内閣官房国土強靭化推進室が今年から始めたもので、事業継続の取組みに積極的な事業者を「国土強靭化貢献団体」として認証する制度。
 田中氏は、「小規模な病院であっても、他の医療機関と連携して、地域を守る責任がある。医療界全体にBCPの浸透を図ることが必要だ」と述べ、BCPの意義を強調した。
大地震を想定した模擬訓練を実施
 研修会の第2部は、大規模地震を想定した模擬訓練だ。参加者は6人ずつの班に分かれ、病院の災害対策本部要員の役割を演じた(写真)。
 各班には、付箋や模造紙、ホワイトボードなど情報整理や意思決定のための備品が配布された。直前の作戦タイムで本部長や情報記録係、情報整理係などの役割を定めると、地震発生のアナウンスが流れ、模擬訓練が始まった。エレベータの閉じ込めや津波の発生、周囲の交通機関の状況など、被災地の状況が会場のスクリーンに次々に表示され、対策本部はその情報を収集、整理して対応を判断し、指示を出していく。
 最後に出張中の理事長から、被災状況と対応の状況を報告するよう指示があり、3分で報告内容をまとめて30分間の訓練を終えた。
 模擬訓練終了後に各班が自己評価を行った。「災害対策本部の設置を院内に発表しなかった」「職員の状況がわからず負傷者の対応が遅れた」など、うまくいかなかった点を含めて報告があり、災害時に備えたBCPの必要性を確認した。
会員病院のBCP を支援
 第3部のBCP策定ミニワークショップでは、BCP策定のポイントについて説明があった。  BCPの目的は、危機発生時の対応スピードを向上させることにある。運用性の高いBCPとするには、分厚いものではなく、スリムな文書構成にすることが必要。また、初動の中で病院として判断しなくてはならない意思決定のプロセスを可視化するとともに、意思決定するために必要な情報は何かを考え、その情報を得るために必要な方策を検討する。例えば、外来患者の受け入れを何時間で判断するかなど、時間軸を記載しておくことが大切だ。  研修会の最後に救急・防災委員会の布施明特別委員が総評を行い、「研修の成果を職場に持ち帰りモチベーションを持って取り組んでほしい。今後も全日病としてBCP の支援体制を整えていきたい」と述べた。

 

全日病ニュース2016年10月1日号 HTML版