全日病ニュース

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医師偏在指標の精緻化をめぐり議論

医師偏在指標の精緻化をめぐり議論

【厚労省・地域医療構想等WG】病院と診療所、診療科別の把握に技術的課題

 厚生労働省の地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(尾形裕也座長)は9月21日、医師偏在指標をめぐり議論を行った。全日病会長(日本医師会副会長)の猪口雄二委員らが、医師偏在指標について、「病院と診療所を区別すべき」、「診療科別の実態を把握すべき」と発言をしていたことを受け、厚労省が指摘事項を検討するとともに、データを示した。医師偏在問題の解決のため、医師偏在指標の精緻化を図りつつも、一定の技術的課題が残ることが明らかとなった。
 医師偏在指標は、従来の人口10万人あたりの医師数に、医療ニーズや医師の性別・年齢分布などを加味した医師数の指標。それを都道府県や二次医療圏ごとに並べ、上位3分の1を医師多数、下位3分の1を医師少数、それ以外を医師中程度と区分している。
 病院と診療所の区別については、三師統計と患者調査を用いて、一定の仮定を置き、試算を行った。その結果、病院の都道府県別の医師偏在指標は、全体と比べ、相互に4県の変動があった。二次医療圏別では、相互に61区域の変動があった。全体では医師多数と判断され、病院のみでは医師中程度と判断された都道府県は1県、二次医療圏は12区域にとどまった。一方、診療所では、全体の指標と比べ、相互に19県の変動があった。二次医療圏では、相互に134区域の変動があった。
 猪口委員は、「病院と診療所を分けて分析することで、理解が深まった。特に、診療所の場合で区分の変動が多いことがわかった。全体の医師偏在指標以外の数値も把握して、偏在状況を判断することが大事だ」と述べた。
 また、今回の分析では、病院・有床診で入院・外来それぞれに対応する医師の分類が不可能であることから、一律の仮定を置いた。これに関し、全日病副会長の織田正道委員は「診療所が少なく、病院が外来を多くになっている地域もある」と指摘。分析結果の妥当性に限界があることを指摘した。

受療率の設定で意見分かれる
 医師偏在指標で用いる受療率については、医師偏在指標の数式の分子に用いる受療率として、「県別受療率」と「全国受療率」のどちらを用いるかを論点とした。受療率とは、人口に対する患者の割合であり、受療率が高いとより多くの医師が必要となり、受療率が低いと、より少ない医師で充足する。
 受療率は全国的に西高東低の傾向にあり、入院受療率と相関が高い。猪口委員は、「受療率と相関が高い入院受療率は、療養病床の数が影響している。療養病床の医師の配置基準は急性期よりも少ないので、それで補正する方法も考えられる」と指摘した。
 奈良県立医科大学教授の今村知明委員は「『全国受療率』を用いるべきだ。『県別受療率』を用いると、現状追認になってしまう」と主張した。他の複数の委員も入院受療率の「現状追認」を回避するため、「全国受療率」を用いることに賛同した。
 一方、全国医学部長病院長会議理事の大屋祐輔委員は、「『現状追認』としないことは大事だが、どのような背景でその受療率になっているかを考えないと、地域の特性を壊すことになりかねない」と慎重姿勢を示した。
 2017年と2020年のどちらの受療率を用いるかということも論点となった。3年に1度の患者調査の直近は2020年だが、2020年は新型コロナの影響が大きかった時期に当たる。2017年は、5年前だが、新型コロナの影響は排除することができる。この論点については、2017年の受療率を用いることで概ね合意を得た。
 ただ、2020年の患者調査をみると、入院受療率は低下している一方で、一般診療所の外来受療率は上昇しているとのデータが示された。
 猪口委員はこれについて、「とても驚いた。2020年は新型コロナの影響で、受療率が低下し、医療機関の経営にも大変な影響を与えたと理解している。それを裏付けるデータもある。外来受療率が上昇したというこのデータは、診療所が新型コロナの検査を一生懸命やったということを示していると思うが、たまたま検査が多い調査日のデータかもしれない。それも含めて2020年の受療率を用いることは歪みをもたらす可能性がある」と述べた。

診療科別の医師偏在指標を議論
 診療科別の医師偏在を考えることは、猪口委員をはじめ病院側の委員が強く主張してきたことだ。しかし厚労省は、三師統計や患者調査などのデータでは、「診療科別の医師の労働時間を把握するにはサンプル数が十分でない」、「傷病名と診療科の対応関係が明確でない」など技術的な課題のため、診療科別の偏在指標の算出は困難と説明している。
 一方、産科・小児科は、他の診療科よりも診療科と疾病・診療行為の整理が一定程度可能であり、地域偏在に早急に対応する必要性がより高い診療科であるため、暫定的に、診療科別医師偏在指標を示すことになっている。
 このため、他の診療科の医師偏在指標を作成することは今回も行わないが、三師統計により、診療科別医師数の把握は可能であることから、三師統計のデータを踏まえつつ、「必要な施策」を検討することを概ね了承した。「必要な施策」とは、それぞれの二次医療圏における地域の協議により講じる施策であり、そのための参考資料として三師統計などを活用することが求められた。
 厚労省はこれに関連し、人口10万人あたりの都道府県や二次医療圏別の診療科別医師数のデータを示した。
 織田委員は、内科の臓器別専門医数が記載されているデータなどに対し、「二次医療圏単位であれば、19の基本診療領域での偏在を考えることが大事だ。臓器別専門医の数をどこまでそろえればよいのかということも、これからの議論になる」と指摘。地域医療を支える医師をどのように確保するかという観点で、診療科別医師数の偏在や二次医療圏の範囲を検討すべきであることを強調した。

 

全日病ニュース2022年10月1日号 HTML版

 

 

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