全日病ニュース
急性期大病院のある地域。高齢者受入と専門急性期の複合機能を志向
<2014年度改定への対応― 会員病院の報告>
□7対1病院の進路選択/一部病床の地域包括ケアへの転換を検討
急性期大病院のある地域。
高齢者受入と専門急性期の複合機能を志向
改定への単なる対応はだめ。地域包括ケア病床の機能を明確にして転換すべき
今回の平成26年度診療報酬改訂はいわゆる地域医療ビジョンと連動した今後の地域の医療・介護提供体制の再編につながる大変革の入り口と言えよう。
私達の病院が属する長崎医療圏は長崎市を中心とした人口51.2万人、高齢化率(65歳以上)24.3%の地域である。
全国の県庁所在地の中では屈指の人口減少が予想されており2025年には人口45.3万人(高齢化率34.0%)となるといわれている。
病院総数は50施設、総病床数10,320床であるが、そのうち一般病床は4,799床、療養病床数は1,893床であり、基準病床に対し1566床の過剰である。
このうちDPCを算定する病院が13病院で、その病床は2997床である。一般病床数は長崎大学病院(862床)、
市民病院(408床。工事終了後に513床)、日赤病院(360床)の順に多く、DPC 病床のうち私的病院が占めるものは1/3にすぎず、いずれも中小規模である。
長崎市は平成24年に長崎市地域医療検討会を発足させ、長崎市の地区別の課題と今後の方向性をまとめた。
この中で、井上病院が属する市中央部は医療機関が集中し、医療資源としては恵まれた状況にあるが、
40才以下の病院勤務医は全国平均より少なく、勤務医の高齢化や疲弊が懸念されている。一方、病床は全体として過剰で、中でも急性期医療にかかわる病床は過剰ながら、ポスト急性期病床は不足することが予測されている。
1965年に設立された井上病院は地域の2次救急輪番制に加わってきたものの、内科、外科、形成外科、
眼科等を標榜する内科系のウエイトが大きい中小病院である。
病床数は112床、うち一般病床(7対1、DPC)が104床、亜急性病床8床、
職員数は常勤284名(医師23名、看護師131名、薬剤師7名、リハビリ27名)で、平成25年度の患者数は、1日平均外来数200人、年間救急車搬送950人、入院は、年間新入院数3,126人、平均在院日数10.2日、病床稼働率93.7%である。
入院経路としては、当院外来から46%、他医療機関からは紹介41%、救急13%である。
もともと当院の看護職員の配置は比較的多く、7対1看護が始まった平成18年にも、特に増員することなく移行可能であった。
さらに、早い時期からリハビリ療法士、薬剤師などの病棟配置を行ってきた。
平成25年度の状況に話を戻すと、DPCデータでは、退院数2,828件のうち,手術ありは843件、救急搬送は367件、
平成26年度改訂における短期入院手術に相当するものが約900件と、病院の性格は、一部専門領域を有しつつも全体としてはいわば地域一般病棟的な役割を果たしている。
法人(社会医療法人春回会)の中には長崎北病院と出島病院があり、前者は神経難病、脳疾患リハビリテーションを専門とし、
後者は緩和医療を専門とする病院であるが、これらの病院とともに地域の中でなるべく幅広く対応することで地域住民の方々の安心を得ることを、法人の社是としている。
さて、この中で井上病院が今回の診療報酬改訂にどのように対応していくかということであるが、
短期的目標として7対1を維持するということであれば、①平均在院日数18日、②「重症度、医療・看護必要度」15%、③在宅復帰率75%への対応が課題となる。
①は短期滞在手術へ移行するものがあり10日前後が12日へ延長する。②は平成25年度は約18%であったが、
平成26年4月~5月の実績では14%から16%である。③は85%である。
重症度15%を維持するためには、7対1病床を一部地域包括ケア病床に転換する必要がある。
地域包括ケア病床はDPC病床からの転床が可能で、重症度の低い患者を地域包括ケア病床に転床するということにすれば、重症度15%を満たすことのできる病床は100床弱ということになり、地域包括ケア病床を15床程度申請することになる(ただし、地域包括ケア病床のルールが未確定であり、DPC期間中の重症度が7対1へ反映するとのことであれば、1病棟を地域包括病棟に変換することも検討)。
国は7対1病床36万床のうち1/4の9万床を削減すると考えているようだが、今回の改訂でかなりの病床が脱落するのではないかと思う。
平成28年度改訂以降の7対1病床削減の進行度合いによっては、さらに基準の厳格化がみられるであろう。
その場合はさらに地域包括ケア病床に転換するのか…。しかし、診療報酬改訂に条件反射的に反応して数合わせをするのではなく、
地域包括ケア病床の機能を明確にして転換していかなければならないと思っている。
地域包括ケア病床には、従来の亜急性期に近いポスト急性期の機能と在宅からの増悪に対応するという機能があるように思われる。
在宅患者の増悪を考えた場合、これは高齢者急性期病床というべきものであり、
複数疾患を有し、多数の問題を抱える患者の治療ということを考えれば、より多数の看護師、多数のコメディカルを要する医療となるはずである。
こういった機能が将来の地域包括ケア病床にあるとすれば、急性期を志向する規模の大きい公的病院が多数を占める地域において、
私達の病院の方向性は、高齢者をきちんと診ていくことができる地域包括ケア病床と得意とする専門領域をみる急性期病床の組み合わせということになるであろう。
これまで看護・コメディカルの配置を厚くすることによってのみ質の向上を図ろうとしてきたことも事実である。しかし、
今後の日本の財政、労働力の状況を考えると、医療資源の無制限な投入は考えられない。
私たちの医療圏のように、中都市からなる医療圏では、中小病院はそれぞれが高齢者をきちんとみていく機能を持ち、
加えて臓器別専門医療に関してはそれぞれが集約して病院間で補完して診療する体制を作ることで、より効率的な医療を提供できるのではないかと考える。