全日病ニュース

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新基金地域の事情の改善に資する。これが投入される条件

全日病第2回「経営セミナー」講演要旨(5月18日)
新基金地域の事情の改善に資する。これが投入される条件

事業主負担も求めることができる。ビジョンに沿った機能転換調整も新基金を想定

厚労省医政局指導課医師確保等地域医療対策室 佐々木昌弘室長 

 医療法改正案の軸は、①病床機能報告制度、②地域医療ビジョン、③医療計画本体、④協議の場、⑤新たな基金制度、の5つである。
◎新たな基金制度
 新基金は、現にある提供体制の不足を補い、地域で真に必要とされる医療を提供してくれる医療機関に投入される。
 近代化資金(医療施設近代化施設整備事業)などの従来の補助金は個々の医療機関の事情が要綱に合えば交付対象となったが、新基金は、(それを必要とする)地域の事情の改善に資することが、医療機関に投入される前提条件である。
 新基金は、地域の隅々に行き渡らせるために、再生基金のように公的中心に投入されるという使われ方はしない。地域包括ケアを構築するための細かな目配りが求められる。
 事業計画をつくるにあたって、都道府県には現場の声をよく聞いてほしいと伝えてある。
◎病床機能報告制度
 病床報告から得られるデータは、①当該医療圏の将来推計を示すビジョン、②「協議の場」での議論、③住民に開示する地域医療の姿、の根拠データに用いられる。医療法の医療監視や健保法の監査指導に用いられることはない。
 医療計画は5年先の推計にもとづいて基準病床を定めてきた。
 しかしビジョンは、2025年という中長期の推計を行なうもので、2025年の、①入院外来別・疾患別の患者数、②医療機能別の必要量、③医療従事者の確保を含めた解決策の3点を見通し、その対策を医療計画に反映する。②と③は今までの医療計画より充実されることになる。
 医療計画は2018年度の同時改定のときに6年のサイクルとなるが、以降、今まで以上に医療計画と診療報酬はリンクするし、医療と介護の計画は密接なものになる。
 ビジョンで明らかになる必要量と現状との乖離等について医療提供者が自主的に話し合う「協議の場」では、病床報告のデータを基に、行政的な権限行使の対象となる原則2次医療圏ごとの最初の案がつくられる。
 ここでの議論結果は都道府県ごとに設置される医療審議会に持ち込まれ、そこでも調整がつかない場合に、知事が、公的病院には命令を、民間病院には要請を行なうことになる。いわば3審制だ。
 民間病院は命令ではなく要請というかたちになるわけだが、それでも民間病院からは「その前に公的病院間の調整をきちんとすべきではないか」といった不満が出ることだろう。
 こうした調整も含め、機能転換等により地域医療の改善に資する場合には新基金が投入されることを想定している。
 経営の選択肢が多いのは民間病院であり、柔軟性が欠ける病院が主役となってもしかたがない。問題は、そうした議論をうまくまとめられるリーダそしてコーディネーター的存在が生まれるか否かだ。
◎質疑応答から
 新基金については4月下旬に都道府県のヒアリングを行なったが、この時点で都道府県に求めていたことは、現場のプロ、様々な関係団体等から意見を聞くことであった。その結果、5~6月にかけて様々な提案が集まり、精査する作業に都道府県は移っていくことになる。
 現場の声を汲み上げる上で現場のプロ意見をとりまめる必要があるため、この点では県医師会の役割が大きいが、そこには難しい宿題が課せられる。つまり、事業選定にいたる経緯、選定の理由、結果の配分割合、県庁の見解など、合理的な根拠を県に示してもらうことになり、その役割も担うからだ。
 事業の提案は個々の医療機関が行なうこともできるが、それは個別医療機関のニーズというよりも「この地域には、こうした機能が足りないから」という理由付けが必要となる。地域の事情を無視した我田引水な事業提案は困る。
 事業資金のすべてが国と県から出るわけではない。国が2/3で都道府県が1/3というのは税金を投入する負担の按分を意味しており、事業主負担も求めることができるが、その場合でも、一律のカットや基準の当てはめをするのではなく、個別事業の中身に応じた判断が必要である。
 これまでの補助金の感覚で、事業提案する事業体に1/2負担を義務づけるという県があるようだが、我々はそうしろとは一言も言っていない。
 新基金は特定目的に特化したものではなく、一括交付金のような性格がある。したがって、事業の重要性に応じた優先順位付けが必要になるし、さらには年度ごとの計画性も求められる。
 これまでの感覚でいる県と、新基金の目的を読み切っている県とで、対応は分かれるだろう。
 新基金について我々は護送船団方式をとるつもりはない。評価をきっちりと行ない、それ踏まえて各県の改善を促すことにより、各県なりの解決方策や計画立案が成長していくのを支援するという考え方である。
 だからこそ、現場の意見が大切であり、現場の考えや声をまとめていくことが大切と思っている。
 たった数人による提案なのか、あるいは地域の多くの関係者の話し合いによるものなのかで、事業案はおのずと違ったものになる。
 そうしたプロセスを残し、検証可能なものとするために、厚労省は各県に、話し合いの内容や結果の割合がどうなったかを具体的に示すよう求めている。
 こうした問題に対応するためには、病院団体といった横のつながりが必要であることから、全日病そして加盟病院もまた成長していくいくことを期待するし、カウンターパートである行政も、また、成長していきたい。