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ホーム全日病ニュース(2022年)第1022回/2022年12月1日号医療法人の経営情報データベース構築で報告書まとめる

医療法人の経営情報データベース構築で報告書まとめる

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【厚労省・経営情報DB検討会】職種ごとの給与費は「任意」、公表時は医療法人をグルーピング

 厚生労働省の「医療法人の経営情報のデータベースのあり方に関する検討会」(田中滋座長)は11月8日、報告書を大筋でまとめた。2023年度中にデータベースを構築するため、社会保障審議会・医療部会に報告した上で、来年の通常国会での法律改正を目指す。
 医療法人の事業報告書等については、今年3月の医療法施行規則改正により、アップロードによる届出が可能となり、都道府県でのインターネットの利用などによる閲覧が行われることになる。住民などからの請求があった場合に、事業報告書等を「閲覧に供する」ことは都道府県の義務である。
 今回のデータベースは、これとは別に、新たな制度として構築するものだ。その目的は、国民に医療が置かれている現状・実態の理解を促すとともに、効率的かつ持続可能な医療提供体制の構築のための政策の企画・立案等に活用するためとしている。背景には、政府の骨太方針2022に盛り込まれた「経営実態の透明化の観点から、医療法人・介護サービス事業者の経営状況に関する全国的な電子開示システム等を整備する」との文言がある。
 また、全世代型社会保障構築会議の中間整理には、「看護、介護、保育などの現場で働く人の処遇改善を進めるに際して事業報告書等を活用した費用の見える化などの促進策のパッケージを進めるべきである」と明記されている。
 新たな制度では、現行の事業報告書等に含まれる損益計算書よりも詳細な経営情報の提出を医療法人に義務付ける。ただし、対応が困難な医療法人は対象外とする。具体的には、法人税制度で社会保険診療報酬の所得計算の特例措置(いわゆる四段階税制)が適用されている医療法人は、除外することにした。
 提出が求められる経営情報は、「政策活用性の向上」と「医療法人への業務負担」の双方の観点から、「病院会計準則」を踏まえ、検討する必要があるとした。損益計算書は対象となる事業を病院と診療所に限定した上で、医療機関ごとの経営情報を求める。貸借対照表は現行の法人単位の事業報告書等を活用する。
 ただ、複数の医療機関を開設する医療法人の中には、施設別に損益計算書を作成していない法人が約3割あることが調査結果から示されており、制度開始後の一定期間は、提出内容の簡素化を認めるなど経過措置を設ける。提出時期についても、現行の事業報告書等と同時期が望ましいとしつつ、負担が増加する医療法人には配慮し、猶予を設けるとした。
 今回の医療法人の経営情報のデータベース構築が求められている理由の一つに、全世代型社会保障構築会議の公的価格評価検討委員会などが、データベースによる「現場で働く医療従事者の給与上の処遇の把握」を求めていることがある。そのためには、「職種ごとの年間1人当たりの給与額」の把握が必要となるが、医療機関の財務情報として把握することは、簡単ではない。
 報告書では、「職種ごとの年間1人当たりの給与額」は「職種ごとの給与費の合計額」と「職種ごとの延べ人数」により算出できるため、既存調査を活用することで対応可能になると指摘。「職種ごとの延べ人数」は病床機能報告制度によって把握できるとした。一方、「職種ごとの給与費の合計額」は、医療法人により職種ごとの細分化が困難な場合や細分化できる範囲も異なるため、その区分方法も含めて、提出を「任意」とした。
 全日病会長(日本医師会副会長)の猪口雄二委員は、「職種別の給与費のデータを作成している医療法人は少ない。これまでも求められてこなかった。今回の対応では、現状で出せるもの以外のデータは『任意』にしてほしい」と念押しした。
 医療従事者の職種ごとの給与額を把握することには、他にも、特に病院団体の委員から、さまざまな懸念が示された。日本医師会常任理事の今村英仁委員は、例えば、ある病院で薬剤師の雇用が一人だけであるなら、個人の給与が報告対象になってしまうと指摘した。
 報告書では、このような懸念に対し、「『職種ごとの年間1人当たりの給与額』は、例えば、年俸制を採用している病院では退職金見合いの金額も含んでいる場合や、医療機関ごとに勤続年数や経験、保有する資格情報等がさまざまであるため単純に医療機関間で比較できないこと」などに留意すべきとしている。
 これらを踏まえ、新たな制度で提出を求める経営情報の「病院会計準則」をベースにした具体的な項目を示した。

匿名化して国民に情報を公表
 国民への公表方法については、個別の医療法人ごとの情報を公表するのではなく、「例えば、属性等に応じたグルーピングによる分析等」の結果を示す。国民に医療の現状・実態の理解を得るためには、そのほうが全体像を示すことができ、理解が深まるとの考えを示した。
 個別の医療法人の経営情報を公表してしまうと、SNSなどの発達した現在では、公表されたデータが「悪意的に利用される可能性」がある。また、グルーピングにより匿名化しても、施設数が限定される地域などでは、個別の医療機関の特定につながりかねないことから、配慮が求められた。猪口委員も、「個別の医療機関の経営情報を公表しないことは、必ず守ってほしい」と強調した。
 なお、具体的な公表については、今後の検討課題となる。
 また、データベースを研究者などが活用する第三者提供制度についても、今後の課題となる。データベース構築後のデータの充実を見据えた施行期日を設定し、それまでに提供対象となる情報の内容や利用目的の限定方法、再識別させないための方法、漏洩リスクの低減などの制度の詳細を慎重に検討するとした。
 最後に、検討会開始前の調査研究事業で、医療法人以外の医療機関の経営情報のデータベース化も検討すべきとされたことに対し、新たな制度では、「医療法人以外の設置主体を対象とすることは難しい」とした。一方で、他の公開情報を収集し、連携させて活用することが、「医療の現状・実態を表す上で有用」と指摘した。

 

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