全日病ニュース

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地域密着型病院に求められる医師像

地域密着型病院に求められる医師像

【静岡学会・プライマリ・ケア検討委員会企画】

 全日病総合医育成プログラムでは、病院で働くいわゆるベテラン医師を主な対象に、診療領域の幅を拡げ、チーム医療の要とすることを研修目的の一つに育成を進めている。しかし、病院で必要とする全体のニーズから考えると、そのごく一部の育成しかできていない状況にあり、地域や病院管理者からみて、総合医が求められる存在かどうか、どう増やしていけるかを考える場として本企画を開催した。
 冒頭、座長の井上健一郎委員(社会医療法人春回会井上病院 理事長)から、企画趣旨とともに総合医育成プログラム受講者及び管理者へのアンケートの結果が示された。研修に一定の成果を感じる一方、時間的・人員的懸念が受講を妨げているとの結果を受け、地域密着型の病院に求められる医師像がどのようなものであるか、また、どう増やすかという問いが投げかけられた。
 小川聡子講師(医療法人社団東山会調布東山病院 理事長)からは、大都市における地域密着中小病院管理者の立場から講演があり、自院で取り組んでいる救急医療と介護が一体になった包括サービス「生活支援型急性期病院」の実践が紹介された。専門医が相互にサポートしあいながら専門領域外の診療を行うことにより、医局全体として総合医的機能を担保することで地域の「かかりつけ病院」として機能している現状が紹介された。
 園田幸生講師(社会医療法人石川記念会HITO病院 副院長)からは病院総合医としての立場から、自院所属11名の総合医によるフロアマネジメントの実践を紹介。DX推進との相乗効果により、共診の実施、円滑な情報共有等に伴う診療の質の向上と働き方改革推進、病棟回転率の向上に寄与していることが示された。
 織田良正講師(社会医療法人祐愛会織田病院 副院長)は地域で活躍する病院総合診療医の立場から、自院の実践を紹介。地域の病院では現場の医師には、地域で何が求められているのかを察知して取り組む必要があるというマインドの必要性を訴え、地域の現場では総合医的役割を担う医師が求められるということを示した。
 木下力講師(医療法人永生会南多摩病院 事業部長)はコメディカルの立場から、看護師等他職種へのヒアリングから得た意見の紹介があった。病院総合診療医が職種横断的に様々な相談に応じていること、チームマネジメント面、診療トラブルへのフォローなど、コミュニケーション面での貢献の大きさが示された。木下講師は、総合的医療の担い手は、地域貢献、事業運営への貢献、多職種への影響の面等から、中小急性期病院に必要な存在であると示した。
 総合医育成プログラムの研修コーディネーターも務めている前野哲博講師(筑波大学医学医療系 教授)からは、地域には総合医が必要であり、そのためにプログラムを活用してほしいという結論がまず示された。一方、専門医の育成に時間がかかる状況下では、今いる医師の中から育てるしかないこと、さらに総合医として活動するには「能力」と「マインド」の両面が必要であり、プログラムや現場での実践を通じて醸成していくことは可能との見解を示した。
 総合討論では、総合医としての「マインド」面を巡り多くの議論が交わされた。総合的な診療体制の事業運営上の重要性への指摘があり、地域や患者が何を求め、それに対して何ができるのか考えることが重要という総合医としての心構えが示された。また、「マインド」は最初からあるものではなく、醸成する環境を作るのが管理者の役目であり、組織がそうしたマインドを価値として認めることが重要ではないかとの意見が示された。園田講師は、幅広い診療を行ってきたシニア世代の医師のキャリアを生かすため、総合医というキャリアの選択肢を示していくことが重要となるという考えを述べた。
 最後に、座長を務めた牧角寛郎委員長(社会医療法人聖医会 サザン・リージョン病院 理事長)から、会員病院の多くは、地域密着型病院を目指しているが、そのためには、今後総合診療専門医や総合医的視点を持った医師が必要になるとの結論が示され、今回の議論を総合医育成プログラムに反映し、発展させていく決意を述べ、本企画を締めくくった。

 

全日病ニュース2022年12月1日号 HTML版

 

 

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