全日病ニュース

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令和時代の職場環境づくり

令和時代の職場環境づくり

【シンポジウム2】人材不足を乗り越えるための方策をめぐって討論

 人材不足が経営上の課題となる中で、必要な人材を確保するには、働きやすく、やりがいを感じられる職場をつくる取組みが欠かせない。学会1日目の午前に開かれたシンポジウム2「令和時代の職場環境づくり」では、3人のパネリストが、働き手不足の時代を見据えた職場環境について発表した。
 横浜病院理事長の北島明佳氏は、人材難となっている介護職確保の取組みを報告した。同病院では、2011年に介護開発室を設置。新入職員を2カ月間配置し、専従の職員3人が教育を担当している。目的は、介護技術の統一・標準化と医療安全を含む介護の質の向上だ。新入職員は試験に合格した後に病棟に配属される。
 同病院では、介護職員が自らの仕事の意義を感じて働けることを大切にしている。介護の仕事は、生活を支えるだけでなく、患者の一番身近にいて人生を支える仕事であることを伝えている。また、介護福祉士の資格取得を積極的に支援。院内で実務者研修を開講したり、受験対策講座を行っている。
 福祉系の学校にとらわれず大卒の新規採用に力を入れ、介護職員に占める大卒の割合は40%を超える。また、介護職員に占める未経験者の割合は71.4%(全国平均は61.3%)となり、「新しく介護に取り組む人材を発掘している」(北島氏)といえる。
 医療法人おもと会理事の石井隆平氏は、沖縄県那覇市に開設した「No liftLabo」の取組みを紹介した。きっかけはグループの職員を対象に行ったストレスチェックだ。70%の職員が腰痛を抱えていることがわかり、ノーリフトケアの導入を決め、「抱え上げない、持ち上げない介助を実践する法人」を目指し、ノーリフトケアの普及に取り組んでいる。
 「No lift Labo」は、そのための活動拠点として開設したもので、介護機器メーカーや大学・研究機関のコンソーシアムで運営する。Laboでは、最新の介護機器を体験できる。利用者は、グループの職員・学生にとどまらず、地域の医療介護従事者、介護にかかわる家族など幅広い。職場環境の改善だけでなく、新たなプロダクトやサービスの創出も期待される。
 HITO病院理事長の石川賀代氏は、ICTを活用した業務効率化の取組みを報告した。病院内の情報共有は複雑で、確認が求められるポイントがいくつもある。多職種協働のチーム医療を進めるには、情報をすみやかに共有し、時間と場所に縛られずに働けることが重要で、「そのためにはiPhoneの活用は不可欠」と石川氏はいう。
 同病院は、業務効率化のためiPhoneカルテを導入した。カルテの閲覧と直接の音声入力が可能だ。また、多職種がリアルタイムで情報共有できる業務用SNSを構築した。
 石川氏は、リハビリテーション科の活用事例を説明した。以前はリハビリスタッフがカルテ入力に時間をとられていたが、iPhoneの音声入力により、患者1回当たりのカルテ入力時間が2分短縮。職員1人当たりのリハビリ数は17.6単位から18.2単位に増加し、リハビリ科全体の有給取得率は、30%から60%に改善した。
 リハビリ科は、若いスタッフが多く教育に時間がかかるが、ここでもiPhoneの機能が役に立つ。カメラ機能を使って、ケアの仕方を動画で共有できて、繰り返し見ることができる。
 石川氏は、「今まで当たり前にやっていたことをやめる勇気がないと効率化は進まない。iPhoneのネットワークにより、これまでにない情報共有の形が実現し、新たな協働による変革がおこるのではないか」と期待した。

 

全日病ニュース2019年11月1日号 HTML版