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ホーム全日病ニュース(2019年)第951回/2019年11月1日号トヨタ生産方式からムダを省く現場仕事を学ぶ

トヨタ生産方式からムダを省く現場仕事を学ぶ

トヨタ生産方式からムダを省く現場仕事を学ぶ

【特別講演3】トヨタ自動車株式会社相談役 張富士夫氏

 学会1日目の特別講演3では、「トヨタのものづくり」をテーマに、トヨタ自動車株式会社の元社長で現相談役の張富士夫氏が、ムダを省いて生産性の向上を図る「トヨタ生産方式」について語った。
 「トヨタ生産方式」は医療にも応用されており、座長を務めた紘仁病院理事長の重冨亮氏は、米国のバージニア・メイソン病院がトヨタ生産方式を導入し、ヒヤリ・ハット事例の減少や患者満足度の向上により、経営の改善につなげた事例を紹介した。福岡県の麻生飯塚病院はそれを逆輸入する形で、毎年、バージニア・メイソン病院にスタッフを派遣しているという。
 トヨタ生産方式は、各工程で必要なものだけが流れるように、停滞なく生産する「ジャスト・イン・タイム」と、異常が発生したら機械が直ちに停止して不良品をつくらない「自働化」の2つの考え方を柱として確立させた。
 張氏は、1950年代当時のGM(ゼネラルモーターズ)・フォード・クライスラーのビッグ3全盛時代の米国の自動車産業の大量生産主義に追いつくために、「ムダを省いた原価低減(工数低減)に取組む必要があった」と振り返り、「ジャスト・イン・タイム」は、「ムダを省くことが大きな特徴であり、これが今でも基本的な考え方になっている」と述べた。
 講演の中で、「ムダをなくしていくことで効率が上がる」と、ムダな仕事の見極める技術の重要性を強調。トヨタにおける仕事とは付加価値を高めるため、工程を効率化する不断の取組みであり、ムダが生じる具体例として、「二度(三度)手間」「やり直し」「手間待ち」「不良品」をあげた。
 「自働化」は、トヨタグループの創始者である豊田佐吉氏が発明した自動織機の考え方を自動車に取り入れたものである。「問題があればラインをとめ、なぜそうなったか理由を考えて、根本原因を探る。自働化によって品質がよくなれば、ラインがとまらなくなる」と述べた。
 これに関連し、「なぜ」について張氏は、「英語の5W1Hではなく、すべてWHYの5Wを使う。1回の『なぜ』では本当の理由にたどり着かない。5回繰り返すことで、現象から原因、真因に近づく」と述べた。
 人材育成については、現場の業務の中で、主体的に考えることを重視している。上司の言葉を振り返り、「仕事では『見たか』と『なぜだ』を常に聞かれる。この2つに対する答えをいつも用意しておく必要がある。主体性を持って取組ませることによって、部下が育つ」と張氏は指摘した。
 現場の訓練では、①現場に出てムダを見つけよ②思い切って直せ③よいと思ったらすぐやれ―をあげ、「真に理解するには経験することだ。『百聞は一見にしかず』であり、『百見は一行にしかず』である。百見るよりも一つを行うことが大事である」と強調した。
 これらは上司から部下に代々受け継がれており、「この部下を育てようと思ったら結論は絶対言うな。考えさせろ」という教育が行われているという。張氏は最後に、「人間は他の動物と違って考える能力があるのだから、仕事においてもそれができる職場をつくることが大切なこと」と述べた。

 

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