全日病ニュース

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ホーム全日病ニュース(2019年)第951回/2019年11月1日号AI・IoTが人を、社会を、地域医療を変える

AI・IoTが人を、社会を、地域医療を変える

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【特別講演4】人間との共存関係を築く

 名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部先端医療・臨床研究支援センターの水野正明センター長が、「AI・IoTと地域医療」と題する特別講演を行った。AI・IoTへの期待が医療介護領域で高まっている。水野センター長は、AI・IoTが人を変え、社会を変え、そして地域医療も変えることは確実と予測しつつも、その変わり方は予測しづらく、期待や不安が過剰な側面もあると指摘。AIについては、今後の進化を見据え、人間との共存関係を築くことが重要とした。
 AI(人工知能)に定まった定義はない。ただ、最近の技術レベルでは、ディープランニングを取り入れた人工知能を意味する場合が多いという。ディープランニングは情報量により、精度を高めるので、ビッグデータと親和性がある。医療に関連するAIとしては、2012年のIBMによるワトソンが有名だ。診断能力に優れ、医師の技術が代替されると話題になったが、現在は「失望」へと変わっている。「高性能の医学辞典に過ぎない」と、水野センター長は述べた。
 一方、ゲノム医療の発達に情報処理技術が多大な貢献をしている。その結果、個人の遺伝子に対応した「精密医療」が実用化されつつある。例えば、「肺がんの原因がALK遺伝子であれば、発生臓器がどこであっても、ALK阻害剤で治せる。このことは臓器別診療体系が、将来は不要になることにつながる」。
 ビッグデータ解析に基づくエビデンスも医療を変えている。ある地域のコホート研究により、脳梗塞は初発時の約6割が軽症で、2人に1人が再発し重症化することがわかった。このため、軽症脳梗塞患者の再発を防げば、要介護者を減らし、健康寿命の延伸が可能になると考えられる。水野センター長は、「エビデンスにより、社会が求める真の医療対象を絞り込んだ事例」と指摘した。
 地域医療での活用では、医療情報の常識も変わると、水野センター長は説明した。医療情報を保有するのはクラウドを通じた「社会」となる。健康医療情報はそこに集約されるため、病院ごとの電子カルテシステムは不要になる。ゲノム情報などを基にした新たな医療の医薬品や医療技術の効果は患者によって異なるので、個人の医療情報を活用した「個別化医療」、そして「個別医療」へと進化していく。
 また、第5世代移動通信システムの水準だと、手術などの遠隔医療が可能になる。水野センター長は、「将来的には、外来も病床もない遠隔医療専門病院が誕生するだろう」と予測した。ただ、これまでにない多量の電波を受けるので、予測できない副作用が生じるかもしれないとの懸念も示した。
 AI・IoTの将来は不確実性が大きい。科学技術は直線的ではなく、指数関数的に発展する時点があるからだ。そのようなシンギュラリティ(特異点)を迎えれば、AIは人間の脅威になりかねない。「AIと共存関係を築く社会を考える必要があり、AIに支配されない人間の育成が急務である」と、水野センター長は強調した。

 

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