全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2021年)第995回/2021年10月1日号コロナとの壮絶な闘いの検証と今後の展開

コロナとの壮絶な闘いの検証と今後の展開

コロナとの壮絶な闘いの検証と今後の展開

【学会企画シンポジウム4】ワクチン接種が完了しても流行は起こり得る

 第1線で新型コロナウイルスと闘っている医師をシンポジストに招き、「新型コロナ感染症との壮絶な闘いの検証と今後の展開」をテーマに議論した。
 京都大学の西浦博教授は、デルタ株の感染性とその動向についてデータをもとに解説した。デルタ株は感染性が強く、実効再生産数は従来株の約2倍。西浦氏らは、デルタ株への置き換わりが進む中で、今までと同じ対策では感染拡大を抑えることは難しくなると、5~6月から警鐘を鳴らしていた。特に、オリンピック・パラリンピックの開催に伴う感染拡大を懸念。6月18日に「提言」を公表し、大会開催は「対策を緩めてもよい」という矛盾したメッセージになると訴えた。
 オリ・パラは政治的な判断により開催され、予想通り大会期間中に第5派の感染拡大となり、医療に大きな負荷がかかることになった。西浦氏は、「リスク評価をしていたが感染を止める措置につながらず、悔しい思いがある」と述べた。
 岡山大学の中尾篤典教授は、新型コロナ患者の治療に当たった経験から終末期におけるACPについて述べた。岡山大学病院のICUでは、コロナ患者を受け入れることで、一般の救急患者や術後患者の受入れを制限せざるを得ない状況が続く。「病床がひっ迫する中で、命の選別をしなければいけない状況に陥っている。新型コロナとACPを関連づけるのは無理があるかもしれないが、生命の重さを考える機会になっている」と中尾氏は指摘した。
 日本医療法人協会副会長の太田圭洋氏は、病院経営への影響について述べた。3病院団体の病院経営状況調査から2020年度の1年間の数字をみると、コロナを受け入れた病院の医業利益率は対前年度でマイナス4.7ポイントとなり、大きな影響があった。コロナを受け入れていない病院はマイナス1.4ポイントだった。
 病院経営の悪化が予想されたため、昨年3月から政府・与党に支援を要請し、5月の第2次補正予算に医療機関支援策が盛り込まれた。2次補正予備費や3次補正でも対策が追加され、すべてを合わせると4兆円を超える資金が医療に投入され、この結果、2020年度の医業利益は黒字に転換した。
 ただし、今の支援策が継続する状況にはなく、災害時の概算払いを参考にした支払いを検討する動きもある。財政支援策が変更されると、現在のコロナ医療提供体制に大きな影響が予想される。太田氏は、今のままの支援策を継続することも現実的ではないとして、「病院団体として議論し、提言しなければならない時期だ」と強調した。
 全日病の猪口正孝常任理事は、東京都の感染症対策タスクフォースのメンバーとしてコロナ対策に関わった経験から、レジリエントな医療提供体制のための方策を提案。「一番大事なことは危機管理体制をとることだ」と述べた。通常時のラインが保たれたままでは窓口が多くなって責任の所在が不明になる。対策本部がすべてを担い、ワンストップソリューションの体制をとることが肝要だと述べた。
 討論では、秋以降の感染対策について意見交換した。西浦氏は、「デルタ株の出現が展開を変えた」と指摘。緊急事態宣言で感染者が減っても、解除されると一気に感染者が増える感染性の強さがある。人の接触を減らす強い措置が必要になるが、要請ベースの行動制限では感染が抑えられないとすると、ロックダウンのような法律に基づく措置が必要になる。あわせて予想される感染者数に備え、医療提供体制を整える必要があるとした。
 ワクチンの効果について西浦氏は、「11月に接種を完了しても、希望者に接種しているだけでは流行を抑えることは難しい」と述べる。接種率を大きく上げる対策をとるか、そうでなければ流行の再発に備えなければならないとし、ロードマップを描いて戦略的に考える必要があると強調した。

 

全日病ニュース2021年10月1日号 HTML版