全日病ニュース

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ホーム全日病ニュース(2021年)第995回/2021年10月1日号「食」は医の原点―未来を創る病院の「食」とは

「食」は医の原点―未来を創る病院の「食」とは

「食」は医の原点―未来を創る病院の「食」とは

【医業経営・税制委員会】病院給食の今後を考える

 医業経営・税制委員会は今年3月11日に引き続き、病院給食をテーマにWEBセミナーを行った。座長は委員長の中村康彦全日病副会長。演者は、同副委員長の今村英仁氏、日本栄養士会会長の中村丁次氏、上尾中央医科グループ栄養部部長の渡辺正幸氏が務めた。3名による講演の後、4名によるパネルディスカッションが行われた。
 中村座長は冒頭、「病院を取り巻く環境は厳しい。患者により良い『食』を提供し、治療に結び付けるにはどうすればよいかを議論してもらいたい」と挨拶した。
 1題目の今村氏は、病院の給食部門が赤字になった要因、調理師の確保が困難な現状を説明した上で、「管理栄養士の教育カリキュラムが臨床栄養を中心とした内容に見直されたこともあり、オールドカルチャーと新しい教育体系で学んだ管理栄養士、栄養士が現場で混在している。さらに、2021年度の介護報酬改定で地域住民の栄養管理も期待されるようになった。その中で厨房の運営責任は病院経営者にあると強調したい」と主張した。
 2題目の中村氏は、日本における病院給食の歴史や栄養障害に関する海外研究等を交えながら「患者に個別対応しつつ、厨房業務やその他事務的な作業はITやロボットを活用して徹底的に合理化すべき。さらに産業化した方が良い。ベッドサイドで行う臨床栄養に注力する必要があり、それを担うのが管理栄養士だ。管理栄養士には『個別性の高い患者の食事』と(給食提供側に立った)『特定多数への食事提供』を調整する役割が期待される。給食の合理化は管理栄養士の病棟配置と並行して議論すべきである」と提言した。
 3題目の渡辺氏は、「調理済み食品をうまく活用することで厨房業務の効率化は可能。特に介護食では導入しやすい。給食センターの開設、運営も考えられるが、個人病院では困難である。民間企業に期待したいが、規制緩和が必要」と述べた。
 特別講演として、同委員会の池上直己特別委員が「栄養管理費と給食費を分けた上で栄養管理費は引き続き保険給付の対象とし、給食費(材料費+人件費)は全額自己負担とすべきだ。そこで浮いた財源を栄養管理費に上乗せすることで、入院患者の栄養管理を充足させる財源にできる」と提言した。
 パネルディスカッションでは、ファシリテーターの今村氏が「栄養管理と厨房を分けて考えた方が良いか」と尋ねたのに対し、渡辺氏が「今すぐ切り離すことは難しい」と述べた。中村氏は「物事を変えていくには順序立ててソフトランディングするのが大原則だ。日本の栄養政策を担うリーダーが将来の方向性を訴えていく必要もある。海外の事例から、食事提供は治療食も提供できる院外レストランが担うかもしれない」と述べた。中村座長は「平均在院日数が違う急性期と慢性期で給食に対する考え方は異なる。現在の制度はその点に配慮されていないが国にも財源の問題がある」と指摘した。
 また、昨今の管理栄養士についての議論に関し、中村氏は「栄養士が臨床経験を積めないまま管理栄養士になるケースがあるが、結果として臨床に関われず、離職につながりやすい。このプロセスは賛成できない」と問題点を挙げた。その上で「海外でフードサービスを担う人たちはビジネスマンとしてアイデアがあり、厨房設計から全てにサイエンスがある。日本でも給食を若者が憧れる職業にする必要がある」と訴えた。
 最後に中村座長は「この議論は継続すべき」との考えを示した。

 

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