全日病ニュース

プロジェクトを進めるうえでの勘どころを講義

【医療DX人材育成プログラム⑥】
IT運営の方針の立て方、体制の整備、計画の遂行、ルール化も解説
高橋泰　国際医療福祉大学教授、全日病広報委員会特別委員

　院内のDX化が適切に推進できる院内人材を養成する目的で、全日本病院協会は、広報委員会を担当委員会とし、日本医療教育財団、介護・医療見える化・効率化協会と共同共催で、「2023年度医療DX人材育成プログラム（全10回）」を開講した。今回は、第６回目の講習会の内容を紹介する。第６回講習会が、９月28日（木）13時〜 16時にZoomで開催され、136病院、310人が参加した。
　本講習会の前半は、前回に続き局千恵子氏（社会医療法人原土井病院経営企画室）が担当し、これまで自ら関わってきたプロジェクトの経験をベースに、DX推進を含めたプロジェクトを進めるうえでの勘どころに関する講義を行った。約16年間の経営企画の経験を通して気を付けていることは、右表に示す10点であることを説明し、具体的な事例でプロジェクトの進め方を説明した。
　事例の一例として、まず2019年10月から2020年の２月にかけて行われた「みどりのクリニック電子カルテシステム更新プロジェクト」を紹介する。まず、「②経営会議（経営者）からのオーダーを具体的にヒアリング」して「プロジェクトの範囲」を明確にした。次に、「③最重要なのはスピード」に従い、2019年10月～ 2020年３月までと期限を区切り、ミッション、委員長、委員を決め、理事会と委員会との報告内容と承認・指示すべき内容を取り決め、さらに業者と委員会の間で報告、説明すべき内容と運用における検討事項を明示した。「⑤人、もの、お金の３方向で計画し、スケジュール（〆切）を明確にする」ために、キックオフまでの期限を明示したTO ‒ DOリストを作成し、その後実行のステージに進んだ。
　2020年３月から行われた「介護ソリューション連携システム」プロジェクトでは、Wi-Fiネットワーク系統図、各階の無線AP（アクセス・ポイント）プロット図や各社の危機プロット図を徹底してメンバーに示し、どこの時点でできていること、できていないことを示す表を作成し、プロジェクトの進行状況の関係者への見える化が徹底して行われたことが説明された。
　今回の講座で紹介されたいずれの事例にも共通する特筆すべき特徴は、「⑥段取り８割、実行２割」が徹底され、段取りに驚くほど精力を傾注していることである。その根底には、運営方針・計画のルール化プロジェクトリーダーの「⑦現場スタッフへは感謝と誠意で接し情熱を伝える」思いがあり、「⑩経営者、スタッフとの関係をいつも良好に保つ」心配りが感じられた。DX関連のプロジェクトでも、できる限り段取りをしっかりと行い、期限と担当者と報告事項や指示の内容をあらかじめできる限り明確にすることの大切さを感じ、しかもその具体的な進め方が理解できる講義であった。
　後半は小林土巳宏氏（株式会社MEMORI）による「運営設計」についての講義が行われた。
　「（１）IT運営方針の立て方」の講義では、IT運営とは、ITの機能を発揮できるように、支障なく、稼働し続けていくこと、まとめ上げることであり、IT運用とは、ITの機能を生かして、IT（プログラム、ツール等）をうまく用いること（使うこと）であるという運営と運用の違いの説明が最初に行われた。運営には、サービスレベル管理、可用性管理、ITサービス継続性管理、キャパシティ管理、情報セキュリティ管理があり、それぞれの具体的な内容が説明された。
　「（２）運営体制の整備」では、「IT部門」任せにしない体制構築、「外注ベンダー」任せにしない体制構築の具体的な方法について説明がされた。
　「（３）運営計画の遂行」では、現状を理解し、スキルアップをはかり、仕事の内容・やり方を変え、計画遂行のゴールにたどり着くまでの各段階の具体的な内容や注意点などが説明された。
　「（４）運営方針・計画のルール化」では、IT設備の導入や運営、自院IT要員の育成、新規システムの企画・開発、仕組みやルールづくり、ITへの投資、ITのリスク管理など、さまざまな事柄の方針策定、ルール化を「ITガバナンス」といい、良質で真のITガバナンスのための６つの原則について説明があった。

表：DX推進のプロジェクトにも役立つ、プロジェクト推進の10個の勘どころ