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地域医療構想と民間病院

続報・全日本病院学会 in 広島
地域医療構想と民間病院

【学会企画7】集約と分散の是非をめぐり議論


木下氏


松田氏


太田氏

 学会企画7では、「地域医療構想と民間病院~集約と分散」がテーマとなった。厚生労働省の木下栄作・保険局医療課医療技術評価推進室長が広島都市圏の病院再編案などを紹介。太田圭洋・新生会第一病院理事長が病院再編の過度な集約化への懸念を表明した。松田晋也・産業医科大学教授は、高齢者施設と医療機関の連携強化が救急車による高齢者の搬送を減らすことができると主張した。

3病院を統合し千床の病院整備
 木下室長は、厚労省担当官として、地域医療構想の運用に深く関わった経験を踏まえ、地域医療構想の趣旨を整理した上で、地域の取組みとして、下関市、新潟県、広島都市圏の3事例を紹介した。特に、前職の広島県の健康福祉局長時に基本構想を練った病院再編案について、詳しく内容を示した。
 新病院は、県立広島病院(712床)、JR 広島病院(275床)、中電病院(248床)を統合。急性期・小児医療を集約し、回復期病床を増床した千床(一般病床950床、精神病床50床)の大病院だ。高度医療と人材育成の拠点の整備を目指し、全国トップレベルの高度先進医療を提供するとともに、派遣機能を通じて地域医療体制を確保。全国から優秀な若手医師を惹きつけ、医療人材を確保する好循環の実現を狙っている。
 広島県では医師臨床研修制度の導入後、研修医が減った。このため、現在でも指導医を担う30代の医師が少ないという。木下氏は、「この層が手薄であることが広島県の課題で、集約化の必要性を高めている」と述べた。今後の医療提供体制の見直しにあたって、「個々の医療機関単位で、将来の議論をするには限界があり、地域の今後の医療需要・供給体制を見える化し、『みんなが当事者』という意識で、関係者を巻き込むことが重要」と強調した。

一次救急の裾野を守ることが大事
 松田教授はまず、団塊世代が80歳以上になっていく人口構造の変化を捉え、医療・介護のニーズを考えることの重要性を改めて指摘。高齢者救急への対応が大きな課題となるが、骨折や心不全、悪性腫瘍など医療のイベントがきっかけで、要介護になることが多く、要介護になると、医療の必要性が増加することを踏まえ、高齢者施設と医療機関との連携を課題とした。
 その場合に、「議論が急性期に偏る傾向があるが、一次救急の裾野を守ることが大事で、それが弱くなると、三次、二次救急に集中し、救急医療体制の崩壊の危機を招く」と述べた。「要介護高齢者の救急には必ず予兆がある」と指摘し、「日々の状態変化に気付き、それを捉えて早めに入院し、早期退院できれば、救急車による搬送が減らせる」と、両者の緊密な関係に期待した。

過度な集約化は弊害生じさせる
 太田理事長は、「過度の急性期医療の集約化の弊害を、今一度、考えるべき」と訴えた。「『集約化=効率化=お金がかからない』という図式からの脱却」を提案。千床単位の高度急性期の病院を病院再編で作ることに疑問を投げかけた。「大鑑巨砲主義はこれからの地域医療になじまない。より必要なのは身軽で小回りのきく駆逐艦のような中小民間病院」と述べ、現状の医療資源をできるだけ活かすべきとした。
 「集約化」に偏った病院再編の副作用として、◇公立・公的病院の再編で巨大病院ができ、救急医療を担う近隣の二次救急病院が撤退。軽症患者も巨大病院に集中◇補助金の投入額が逆に増加◇巨大病院が回復期も増床─などが起きたと指摘した。「効率化を目指す集約化が、逆に、地域全体でみれば、非効率を生む場合がある」と述べた。
 特に大都市部では、「高齢者救急の急激な増加がある中で、地域医療を支える二次救急医療機関をいかに維持するか」が重要と強調。一方、2024年度診療報酬改定に向けた中医協の議論を踏まえ、「高齢者救急は、かかりつけ医機能を担う病院(13対1看護配置)で担えというのは、人員が足りず無理筋」であるとし、急性期病院の機能の幅を認めるべきとした。

 

全日病ニュース2023年12月1日号 HTML版

 

 

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  • [3] NEWS 11/1 - 全日本病院協会

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2013/131101.pdf

    2013/12/14 ... 厚生労働省は10月11日の社保審医療部会に、一般・療養の病床数を病床機能報告制度. の医療機能ごとに定める仕組みを医療法に導入する提案を行なった。

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