全日病ニュース

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社会の中で医師はどのような役割を果たすか

社会の中で医師はどのような役割を果たすか

【学会企画シンポジウム2】医師偏在や働き方改革に示唆

 学会企画の「医療の社会性をデザインする」では、医療と社会の関係をめぐり、様々な角度から議論した。喫緊の課題である医師偏在対策や働き方改革の対応を考える上で、示唆を与えるシンポジウムとなった。座長は猪口雄二会長。
 河北総合病院理事長の河北博文氏は、西洋では神学、法学、医学の3つが神の領域に関わる学問とされ、「それに従事する人が職業倫理を負っている」と説明。プロフェッショナル・オートノミーとは、「自治的なあり方ではなく倫理である」と強調した。
 日本医師会長を務めた武見太郎氏の「医療とは医学の社会的適用」との言葉を引き、現代では「神」ではなく、「社会」と医学が関わり合うことにより、医師に社会的責任が生じると指摘。
 「かつては『由らしむべし知らしむべからず』で、医師中心の時代があったが、今は患者が中心になった」として、健康を支えるのはあくまで患者自身で、「患者が自分の健康に責任を持つことを理解すること」の意義を訴えた。
 厚生労働省医政局長の武田俊彦氏は、医療と社会との関わりの観点から医師偏在の問題に言及。「医師の自主性を最大限尊重した上で、国と都道府県は地域医療の確保に責任を持つ。その観点で、行政が介入することが、医師のプロフェッショナル・オートノミーに反するとは考えない」と述べた。
 「医療機関の開業は自由だが、病床は規制している。民間が主体だが非営利が前提。どこの国をみても、自由市場に全面的にまかせず、公共部門の下にある」と現行の医療制度を説明。その上で、地域医療構想という新たな仕組みの意義を訴えた。
 地域医療構想を実現するための地域医療構想調整会議は、医療機関同士が地域の医療提供体制を自主的に話し合う仕組みだ。「話し合いでうまくいかなければ、吸収合併という強制的な措置ではない地域医療連携推進法人という選択肢がある」と補足した。
 慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏は、「医師はガス・水道・電気に似ている。ないと生活できない。ただ人間であるということが難しい」と問題を設定した。自然にまかせて、適正配置が実現しないのであれば、政策的な対応が必要と指摘。社会保障・税一体改革の議論の中で、医療団体が「医師偏在解消に向け一定の規制を受け入れる」と発言していたことを評価し、取組みを前進させる立場から、地域枠など医学部入学者の問題について述べた。
 医師は地元の医学部を出ると、その地域に定着するという前提で、一県一大構想ができた。しかし1990年代以降、都会出身の学生が地方の医学部を占拠し始める。「バブル崩壊後、優秀な学生は東大を目指すより、地方の医学部を目指すようなったからだ」(権丈氏)。
 都会の出身者は卒業後しばらくすると都会に戻ってしまう。権丈氏は、地域枠が機能していない状況を指摘。医師需給分科会が、地域枠の見直しを議論していることを評価した。
 東京大学大学院医学系研究科の渋谷健司氏は、「医師が足りている地域でも、医師不足を訴えている。外形的な手段に訴え、医師を増やすことや強制配置をすることは解決策にならない」と問題提起した。「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が実施した医師の働き方調査の結果を紹介。1万6千人の医師が回答した初の大規模調査で、「地方勤務の意思ありという回答が44%。
 若い医師ほど高い傾向にある」。しかし、実際には地方の医師不足が続いている。渋谷氏は、「医師が定着する土壌を作る必要がある」と主張した。
 具体的には、ライフスタイルに合った医師のキャリア形成が可能になる仕組みが求められると指摘。「20代はバリバリ働き、30~ 40代は子どもの教育がある。50代になれば親の介護や将来設計が重要になる。これは医師に限ったことではない」と渋谷氏は述べ、働き方の見直しが不可欠と主張した。

 

全日病ニュース2017年10月1日号 HTML版