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社会保障改革と消費税、ICT・AIの活用、地方創生と医療の役割を議論

社会保障改革と消費税、ICT・AIの活用、地方創生と医療の役割を議論

【特別シンポジウム】どうする医療~財務の視点、厚生労働の視点、地方創生の視点~

 市民公開講座として行われた特別シンポジウムは、4人の政治家を招き、「どうする医療~財務の視点、厚生労働の視点、地方創生の視点~」をテーマに社会保障の財源問題と消費税、ICT・AI の活用、地方創生と医療の役割について論じた。シンポジストは、石破茂衆議院議員(前地方創生相)、伊藤達也衆議院議員(元金融相)、田村憲久衆議院議員(前厚生労働相)、自見はなこ参議院議員(医師)。座長は、神野正博学会長とキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の松山幸弘氏。
医療・介護同時改定の財源は?
 基調講演を行った松山氏は、来年の医療・介護同時改定について、「それほど心配はいらない」と楽観的な見方を示した。「政府は社会保障費を1,300億円抑制する方針だが、それ以上のことはしない。診療報酬はマイナス改定のような話にはならないだろう。介護報酬も政策的にもマイナス改定にすることはあり得ない」と述べた。
 松山氏は、「問題はその次に起こることだ」として、財政破綻のリスクを指摘。国と地方の債務残高は名目GDPの2倍を超え、わが国の財政は既に構造破綻の状態だ。新たな国債を発行しても買い手がつかない「国債札割れ」の事態が起こると、日本は財政再建の意欲も能力もないと金融市場からみなされ、円の信用が失墜すると警鐘を鳴らした。
 一方、田村氏は、同時改定の見通しについて「そんなに簡単なものではない」と楽観論を否定。2017年度予算の中で2018年度分まで社会保障費を抑制する仕組みがあるが、待機児童の解消のために500億円が別途必要になる事情を説明。診療報酬本体のプラス改定に向けて努力する必要があるとした。
社会保障を政府の大きな課題に
 社会保障の財源問題をめぐって、元金融大臣の伊藤氏が、社会保障制度改革国民会議の議論を振り返って発言した。少子高齢化・人口減少社会を乗り切っていくためには社会保障の機能強化が必要であり、国民会議は消費税率を引き上げその財源を社会保障に充てる道筋を描いた。しかし、社会保障・税一体改革では、消費税率を5%上げても社会保障の充実に使うのは1%のみで、残りの4%は財政赤字の穴埋めに使われることになった。「デフレに対する処方せんを間違えたからだ」と伊藤氏。リーマンショック後にデフレの状況に陥り、世界標準の財政運営を行うことができずに財政赤字が拡大した。「ポスト安倍政権では社会保障を政府の大きな課題に置いて議論しなければならない」と伊藤氏は強調した。
 社会保障の財源確保のために消費税を引き上げるべきという点では田村氏も同じ立場。2019年10月には消費税を10%に上げなければ「財政がもたない」として確実に実施する必要があるとした。また、75歳以上が増大する2025年に向けて「消費税を10%からさらに引き上げていかなければならない」との認識を示した。
消費税引上げに社会保障改革が必要
 社会保障の財源確保のために消費税を引き上げていくには、社会保障のさらなる改革が求められる。石破氏は、「医師の偏在が言われるが、自由開業制の中で偏在は避けられない。一方で、医師が10%増えればそれだけ医療費が増える。どこにどういう医師を配置するかが自由でいいのか考えなければならない時期にきている。消費税を上げるのであれば、それとセットで社会保障改革の答を出さないといけない」と述べた。
ICT とAI で医療はどう変わる?
 ICTとAIの発展は医療をどう変えるのか。松山氏は、アメリカの最新情勢を報告。「AIの普及によって認知医学の時代が急速にやってくると言われている。AIを駆使して医師が最適な診断をする時代が来る」と述べた。
 それを実現するためには、英知を集めてインテグレートする研究機関が必要となる。「アメリカにはメイヨークリニックのように政府の政策とは関係なく最先端の研究を行う事業体があるが、日本にはそれが存在しないことが問題」と指摘した。
 田村氏は、「バイタルデータをナースがチェックして記録しているが、人がやらなくていいものは機械化して、病院内の業務を徹底して効率化する必要がある。それをやらないと医療人材が足りなくなって病院が回らなくなる」とした。
 自見氏は、遠隔診療に取り組む中で見えてきた課題を指摘した。「金融や情報通信など13の重要インフラがあり、金融の分野では必要な安全基準を自分たちでつくってきた。医療だけがサイバーセキュリティ対策で取り残されている」と述べ、この分野での取り組みの重要性を訴えた。
地方創生に医療の力が不可欠
 石破氏が、日本再生の処方箋として、地方創生の必要性を訴えた。
 「このままいくと日本の人口は2100年に5,000万人を切る。明治の終わり頃に戻るだけという人もいるが全然違う。若い人が少なくなり、高齢者が多くなる中で、どうやって社会保障や財政を維持するのか。お手本は世界のどこにもないので、我々が考えていかなければならない。
 今までは国がいろいろなメニューを用意してその中からどれを選ぶかを考えてきた。しかし、その街でどの産業を伸ばしていったらいいか、霞が関で分かるはずはない。
 また、役場で素晴らしいプランができれば誰も苦労しない。その地域でなければできないプランを『産官学金労言』※が一緒になって作っていく。国の用意したプランではなく、わが街はこれしかない、だから国はこういう支援をしなければならないと言えば流れが変わる。人口が減って経済が伸びない時代には、それぞれの地域がベストプラクティスを出していかないと国自体が立ち行かなくなる」。
 石破氏の発言を受けて神野氏は、「医療は地域に密着している。医療が充実して教育・子育て支援が充実し、働く場があれば人は集まってくる」と述べ、「産官学金労言」に「医」を加えることを提案。
 これに対し伊藤氏は、「大賛成だ。
 地域が健康長寿を支え、安心して暮らせることが地方創生にとって本当に重要。地域の抱える課題を解決するには、縦割りの部分最適ではなく、総力戦で臨まなければならない。当然、医の力が必要」と述べて賛同した。
 ※「産官学金労言」は、石破氏の著書「日本列島再生論」で提唱している考え方。
 「金」は金融、「労」は労働団体、「言」は言論機関で地方の新聞・テレビ。地方創生プランは、行政だけでなく、地域の関係者が知恵を出して考える必要がある。

 

全日病ニュース2017年10月1日号 HTML版

 

 

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    2017年6月1日 ... 医療・介護同時改定を展望し活発に議論社会の変化をとらえ、病院の対応を考える学会
    に! ... 参議院議員をお招きし、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の松山幸弘
    さんに基調講演をお願いし、私も加わって議論しようと考えています。 ―どんな議論に
    なりそうですか。 財務の視点、厚生労働の視点、地方創生の視点から議論をしようと
    考えていますが、政治家を説得しないと医療の財源を ... 社会あっての医療、医療あって
    の社会であり、経済と社会保障の関係についても議論したいと思っています。

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年6月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170601.pdf

    2017年4月7日 ... 社会保障審議会・介護給付費分科会. (田中滋分科 ...... バル戦略研究所研究主幹の
    松山幸弘さ. んに基調講演 ... 創生の視点から議論をしようと考えて. いますが、政治家を
    説得しないと医療. の財源を確保できません。地方創生に. おいても、 ...

  • [3] 大変革前夜に挑め! 石川学会で病院の生き残り戦略を議論

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