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ホーム全日病ニュース(2022年)第1020回/2022年11月1日号医療法人を特定しない経営情報のデータベースを国が構築

医療法人を特定しない経営情報のデータベースを国が構築

医療法人を特定しない経営情報のデータベースを国が構築

【厚労省・経営情報データベース検討会】監督・指導が目的の事業報告書等とは別制度

 厚生労働省の「医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」は10月19日に初会合を開催した。医療機関の経営状況の実態を把握するため、国が医療法人の経営情報のデータベースを構築する際に必要な事項を検討する。今年中には、一定の考えをまとめる。2023年度までにデータベースの構築が求められており、新たな制度による経営情報の提出は、2023年度の可能な範囲での早期に開始する予定だ。座長には、田中滋・埼玉県立大学理事長が選出された。
 データベース構築の目的は、医療法人の監督・指導を目的とする事業報告書等とは異なることから、両者は別制度であることを明確にしている。
 一方、医療法人の事業報告書等のデジタル化については、電子化した事業報告書等を都道府県のホームページなどで閲覧できるようにすることがすでに決まっている。2021年4月~ 2022年3月を会計年度とする事業報告書以降の事業報告書等は、医療機関等情報支援システム(G-MIS)への電子媒体のアップロードによる届出が可能になる。都道府県のホームページなどでの閲覧は2023年度以降である。
 当面、従来どおり紙媒体による届出が可能となっているので、届け出られた紙媒体は、国が委託した事業者が都道府県から紙媒体を入手して電子化を行い、都道府県に電子データを提供するとしている。これらにより、全国の医療法人の事業報告書等の情報は、すべて電子化された状態で国に蓄積され、全国規模のデータベースを構築・活用できる体制になる。
 厚労省は、データベース構築の必要性を強調する。理由として、◇新型コロナの感染拡大でも、医療機関支援などの政策を進めるためのエビデンスとしての医療機関の経営状況が把握できなかった◇医療法人は、運営の透明性が求められており、運営状況を明らかにすることにより、医療が置かれている現状と実態を把握することができる─などをあげている。
 データベースを構築し、医療法人の経営情報を把握・分析できれば、これらの状況を改善できるとともに、「医療従事者の処遇の適正化に向けた検討」や診療報酬改定の参考となる医療経済実態調査の把握が可能になるという。医療機関にとっても、マクロデータを自院の経営指標と比較することで、経営課題の分析に活用できると指摘した。
 経緯を振り返ると、財務省は、財政制度等審議会財政制度分科会などで、「社会福祉法に準じた必要な法制上の措置を講じた上で、医療法人の事業報告書等をアップロードで届出・公表し、一覧性のある全国ベースの電子開示システムを早急に整えるべきである」との考えを示すなど、医療機関の経営の極端な「見える化」を主張してきた。
 これに対し、四病院団体協議会は、医療法人にとって機微な情報が含まれている事業報告書等が、誰にでもどこでもいつでも閲覧できるようにすることは、医療法人の機微な情報の不適切な利用につながると反対してきた。
 今回の厚労省の提案は、個別の医療法人の事業報告書等そのものを開示する財務省案とは異なり、個別の病院が特定されないよう加工された情報によるデータベースだ。このため、検討会の構成員である全日病会長( 日本医師会副会長)の猪口雄二委員、日本医療法人協会副会長の伊藤伸一委員、日本精神科病院協会副会長の野木渡委員ら四病協に所属する委員も、基本的にはデータベースの構築に賛成した。
 猪口委員は、「新たなデータベースで、より精緻な情報が求められたとしても、それが事業報告書等に跳ね返ることのようにしてほしい」と念を押した。
 その上で、各論点について議論が行われた。具体的には、◇制度の対象となる医療法人◇届出を求める経営情報◇病床機能報告・外来機能報告との連携◇国民への公表方法◇第三者提供制度◇医療法人以外の経営情報─が検討課題となった。
 対象は、すべての医療法人を基本としつつ、「社会保険診療報酬の所得計算の特例措置(いわゆる四段階税制)が適用されている法人」は、除外する案が示され、概ね了承された。
 届出を求める経営情報として、◇損益計算書は「病院会計準則」をベースにする◇貸借対照表は現行の事業報告書等によるものとする─との案が出た。ただ、届出内容の簡素化や届出時期についての経過措置は設ける方向だ。給与情報の把握では、職種ごとの年間1人当たりの給与額を把握するためのデータ提出が論点となり、猪口委員は「任意」とすることを主張した。
 病床機能報告・外来機能報告との連携については、連携は行うが、国で政策活用すること以外の活用は「慎重に議論する」ことになった。国民への公表方法では、「属性等に応じてグルーピングした分析方法」を用いることで、医療法人が特定されない対応が求められた。第三者提供制度については、有識者による審査の仕組みを前提に、慎重に検討する。医療法人以外の医療機関の経営情報も他の公開情報を実務的に収集し、データベースと連携させる。

 

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