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ポストコロナ時代の地域医療構想

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【静岡学会・シンポジウム3】巨艦病院が誕生し民間病院を圧迫、地域医療構想の副作用は明らか

 学会2日目のシンポジウム3では、「ポストコロナ時代の地域医療構想」をテーマに議論した。
 日本総合研究所の翁百合氏は、コロナで明らかになった医療提供体制の課題について述べた。国際比較を見ると、累積死亡者数、超過死亡数はともに日本は低い水準で「トータルで見て健闘したと言える」(翁氏)。しかし、重症者数が1,000人に近づくと、病床逼迫が起きて、地域の総合病院に大きな負荷がかかった。
 コロナの対応は各国とも試行錯誤だったが、ドイツやスウェーデンでは病床転換やICUの増設、病院間連携を柔軟に行っている。「日本は病床数が多いのになぜうまくいかなかったのかという印象がある」と翁氏は述べる。
 デジタル化の遅れも浮き彫りとなった。日本は、レセプトデータなどのデータベースは整備されているものの感染状況を把握するリアルタイムのデータを把握できなかった。また、IDに紐づいたデータを追えず、医療の質や医療提供体制の評価ができないことが課題であり、「改善する必要がある」と翁氏は指摘した。
 コロナを経験して患者の受診行動が大きく変化。医療機関にかからない人が増えていることから、オンライン診療と組み合わせて継続した医療を提供する必要があると翁氏は指摘。「データを最大限に活用して地域の実態を正確に把握した上で、2040年に向けて対応を考えていく必要がある」と提案した。


翁氏

一度立ち止まって考える
 名古屋記念財団理事長の太田圭洋氏は、地域医療構想の問題点を指摘し、今一度考える必要があると主張した。
 コロナにより顕在化した課題に取り組むという理由で、地域医療構想を加速化する動きがある。太田氏は、「地域医療構想はメリットもあるが、デメリットもあり副作用が出始めている。どのような形で加速化するのか」と述べる。
 地域医療構想は、2025年を見据え、医療機能ごとに病床の必要量を推計し、地域の医療機関が協議して、推計値に近づけていこうという政策。急性期病床を減らす政策という誤解があるが、地域の医療機関の自主的な協議により、将来不足する医療機能を確保することが目的だ。しかし、地域医療構想で推計した必要病床数は、現場感覚と大きく違う。高度急性期、急性期が多く、回復期が足りないと言われるが、地域医療構想が想定する2025年まで残り3年だ。「本当に回復期が足りないなら、大混乱が起こっているはず。回復期は不足していない」(太田氏)。
 それにもかかわらず、回復期が足りないという理由で、公立・公的病院が回復期リハビリテーション病院に転換し、民業を圧迫する事態が起きている。
 また、集約化の名目で病院を統合し、巨艦病院が誕生している。兵庫県の旧尼崎病院(500床)と旧塚口病院(400床)が統合して、兵庫県立尼崎総合医療センター(730床)になった。病床数は減っているが、以前の1.5倍の超巨艦病院が設立された。もともと赤字の公立病院だったが、合併によって繰入金は19億円から32億円に拡大。巨大病院が出来たことで救急が集中し、尼崎市内で2次救急を担っていた8病院のうち7病院が救急から撤退せざるを得なくなった。その結果、誤嚥性肺炎や股関節頸部骨折など軽症患者が巨大病院にいくしかなくなり、コストのかかる医療提供体制になっている。「集約化すれば効率化するというほど、シンプルなものではない」と太田氏はいう。
 高齢者が急増するこれからの地域医療に巨艦病院はなじまない。地域包括ケアには2次救急が不可欠で、それには軽巡洋艦・駆逐艦のような小回りの利く病院が必要だ。
 地域医療構想では、集約化すべき医療と分散化すべき医療という議論が行われていない。よくある疾患は地域密着の病院が支える形の医療提供体制が必要だが、「今の地域医療構想にはこうした視点が欠けているため、副作用が出始めている」と太田氏は訴えた。


太田氏

 

全日病ニュース2022年11月1日号 HTML版

 

 

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