全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2022年)第1020回/2022年11月1日号医師の働き方改革の推進、看護職員の処遇改善について

医師の働き方改革の推進、看護職員の処遇改善について

医師の働き方改革の推進、看護職員の処遇改善について

【診療報酬改定シリーズ●2022年度改定への対応⑥】全日本病院協会 医療保険・診療報酬委員会委員 西本育夫

 医師の過重労働、とりわけ病院勤務医の過重労働の解消が叫ばれて久しい。そもそもは2007年5月に第一次安倍政権下の政府・与党により「緊急医師確保対策について」が取りまとめられたことに端を発する。その後の2008年の診療報酬改定以降、社会保障審議会からは毎回必ず病院勤務医の負担軽減についての方針が示されている。
 今回の改定においても、重点課題の一つとして「安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進」と同様の方針が示された。また、これに加えて2021年12月22日の政府予算案を巡って後藤茂之厚生労働大臣と鈴木俊一財務大臣の大臣折衝が行われ、本体改定率を+0.43%に決定した際、「医師の働き方改革に係る診療報酬上の措置について実効的な仕組みとなるよう見直し」等の改革を着実に進める方針も付記されている。

1.医師やその他の職種の働き方改革の推進等について

「地域医療体制確保加算の見直し」

 2020年の診療報酬改定時に新設された項目であるが、今回の改定では520点→620点と点数が引き上げられ、年間2,000件以上の救急搬送患者の受け入れを必要とする要件の一部が緩和されて、「ハイリスク分娩管理加算」、「総合周産期特定集中治療室管理料」、「小児特定集中治療室管理料」、「新生児特定集中治療室管理料」のいずれかを届け出ている病院や総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センターにおいては、年間1,000件以上で要件を満たす改定が行われた。

「夜間における看護業務の負担軽減に資する業務管理等の項目の見直し」
 看護職員の配置に係る加算、看護補助者の配置に係る加算など、看護業務の負担軽減に係る各種加算が軒並み5点引き上げられた。また、これらに係る項目についても一部が見直され、「11時間以上の勤務間隔の確保」、「夜勤の連続回数が2連続(2回)まで」のいずれかを満たすことが必須とされた。
 看護職員夜間配置加算については(精神科救急急性期医療入院料及び精神科救急・合併症入院料)の施設基準における満たすべき項目の数について、2項目以上から3項目以上に変更された。

「医師事務作業補助体制加算の見直し」
 今回の改定では、点数が高く要件も厳しい「加算1」、及びそれ以外の「加算2」のうち、「加算1」については「延べ勤務時間の8割以上において、業務が外来又は病棟で行われている」という従来の要件が、「3年以上の勤務経験者が5割以上配置されている」に置き換えられた。
 院内で従事する場所の制限が撤廃され、より弾力的で実態に即した配置が可能となった。

 そのほか、今回の改定では、手術及び処置の時間外加算1等に係る要件の見直し、特定行為研修修了者の活用の推進、病棟薬剤業務実施加算の見直し、診療録管理体制加算の見直しや標準規格(電子カルテの次世代標準フレームワークであるHL7FHIR)の導入に係る取組の推進などが変更・追加された。

 ご存じのとおり、2024年4月から医師の時間外労働時間の上限規制が適用される。
 即ち、今回の改定は各医療機関が医師の働き方の仕組み作りを行う上での最終形となったことを意味している。
 今回も医師の働き方改革を後押しするような改定が行われたが、対象となる医療機関は限定的で、医師の働き方の改革の仕組み作りを要するすべての医療機関をカバーするものにはなっていない。
 夜間における看護業務の負担軽減の業務管理等の項目の見直しについては、改定ごとに満たすべき項目等の拡大や厳格化が行われている。今後については病棟等看護業務の実質的なスリム化に取り組まないと、要件を満たし続けることが厳しくなるであろう。
 これらの点についてはよく理解しておく必要がある。

2.看護職員等の処遇改善について

 いささか唐突な感じもするが、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策(2021年11月19日閣議決定)」において、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を1%程度(月額4,000円)引き上げるための措置(看護職員等処遇改善事業補助金)を、2022年2月から9月まで実施することが決定され、これを受け継ぐ形で2022年10月以降の診療報酬での対応の検討が開始された。
 今回の改定で社会保障審議会から発出された重点課題中の例としては、「令和3年11月に閣議決定された経済対策を踏まえ、看護の現場で働く方々の収入の引上げ等に係る必要な対応について検討するとともに、負担軽減に資する取組を推進」と政府の方針が露骨に示されている。
 10月以降については、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組み、具体的には看護職員処遇改善評価料が新設された。
 今回の本体改定率+0.43%中、+0.20%は看護職員の処遇改善の原資として割り当てられている。余談ではあるが、この評価料(医療機関の収入にはならない)を除くと実質的な本体改定率は+0.23%だったのである。
 施設基準としては、「イ 救急医療管理加算の届出を行っており、救急搬送件数が年間で200件以上であること」または、「ロ 救命救急センター、高度救命救急センター又は小児救命救急センターを設置していること」のいずれかに該当する必要がある。所定の算定式に基づき165通りの区分を届ける必要があり、毎年3、6、9、12月に新たに算出を行い、区分に変更がある場合は届出を要する。
 なお、この処遇改善の支給対象者は看護職員に加えて、看護補助者、理学療法士など幅広いコメディカルへの支給も可能となっている。支給対象を看護職員だけに絞るか、その他の職種まで含めるかについては、それぞれの医療機関の判断とされた。
 ただし、看護職員以外を支給対象とする場合においても、医療機関に給付される金額に変更がないため一人あたりの受け取り額は少なくなる。
 個人的な所感であるが、支給の対象とならない医療機関に勤務する看護職員、支給の対象となる医療機関であっても、看護職員のみ対象、看護職員以外の職種まで対象など、職員の受ける処遇は一定ではない。本当に処遇改善に資するものなのか疑問を感じている。

 

全日病ニュース2022年11月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。