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ホーム全日病ニュース(2022年)第1020回/2022年11月1日号弱体化する日本で医療はどう変わるか

弱体化する日本で医療はどう変わるか

弱体化する日本で医療はどう変わるか

【静岡学会・学会長講演】土田博和 全日病・静岡県支部支部長

 45年間になる医療活動の中で、書籍を出版したり、映画を製作したりもしながら、民間病院の苦悩する姿を見つめ、日本の病院がどうすればよくなるかを考えてきた。欧米の医療の経験から、わかってきたこともある。短期間であったが、参議院議員として永田町にも行った。医療に携わる若者たちが、鵜飼の鵜のようにならずに胸を張って生き抜ける環境を作らないといけない。
 これから医療界にさまざまな変化が起きる。目の前の大きな変化では、医師の働き方改革が2024年度に始まる。医師の時間外労働時間に上限が設けられ、違反をすれば労働基準監督署により立入検査などを受けることになる。労働基準監督官は逮捕権を持っているということを覚えておいてほしい。
 日本全体を考えると、経済的にも文化的にも弱体化してきている。
 国の累積債務は1,000兆円を超え、医療費を多く使う高齢者が増える。少子化は、出生率の低下が話題になるが、生まれる人がどんどん減ることに注目する必要がある。地方は過疎化で疲弊し、担税力が弱まっている。国公立病院への補助金はまだ1兆円ぐらいあるが、そのうち限界が来るだろう。
 医療機関の地域連携は、大学病院とその系列病院同士の壁が厚く、進まない。医師が壁を越えて自由に行き来できるようにならないと、うまく行かない。静岡県でもそうだ。
 一方で、医療従事者の募集に人材派遣会社を使うと、高額の紹介料が取られる。医療に一生懸命取り組んでも、こういうところに吸い取られてしまう。紹介料だけでなく、高額な医療機器や通信システムなどに多くの医療費が使われていることには、危機感を抱いている。医療機関の医師の確保については、医師と医療機関のマッチングが成約しても、手数料ゼロで運用するソフトを独自に作った。全日病に無償提供するので、是非活用して医療機関の負担を軽減してほしい。
 出生者の減少を踏まえると、医師養成数をどうするかは難しい問題だ。40年以上前の1981年の18歳以上人口に対する医師数は227人に1人の割合だった。これが2027年には120人に1人、2050年には86人に1人になる。もともと日本の医師数は欧米諸国に比べると少ないので、ちょうどよいと考える人もいる。しかし、人口が3千万人減少する2050年を考えると、かなり厳しい状況になるのではないか。
 情報通信技術の活用は、医療の姿を大きく変える。マイナンバーカードを用いてアクセスし、閲覧できる医療情報が広がり、医療機関等でも共有される。将来的には、患者は自宅からスマホでAI による問診と診断を受け、処方された薬は電子処方箋により調剤され、薬は宅配されるようになるだろう。AIの診断能力は確実に向上しており、分野により医師の経験を超えていく。利便性もあり、患者もAI 診断に頼ると思う。
 一方、医療機関の対面診療では、AI 診断も活用しながら、診断し、治療・処置を行う。その場合には、広く浅く全科に対応できる「真の総合医」がかかりつけ医を担い、必要に応じて「実力平均化した専門医」に紹介する機能分化が求められる。
 地域連携においては、民間病院が担える医療は民間病院が担い、民間病院が担えない医療は公・準公的病院が担うとの役割分担を進めるべきだ。例えば、新型コロナのようなパンデミック時には、公的病院を専門病院とする英断が必要だ。


土田博和 全日病・静岡県支部支部長

 

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