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ホーム全日病ニュース(2018年)第928回/2018年11月1日号支え手が減る社会で、効率的な医療を...

支え手が減る社会で、効率的な医療を

支え手が減る社会で、効率的な医療を

【特別講演 2】猪口雄二 全日病会長

 成熟社会というのは、ガボールというイギリスの物理学者の言葉で、1972年に提唱された。それから年月が経ったが、日本社会はまさに、成熟社会と言われる社会を迎えつつある。特に、人口動態をみると、日本が大きな変化を迎えていることがわかる。日本だけでなく、先進諸国はほぼその傾向にあるし、アジア各国をみても、日本に遅れて、高齢社会を迎える。日本もそうだったが、アジアの高齢化のスピードは速い。世界が今後、高齢社会を迎える中で、日本が先頭に立っている。
 そのような社会で医療・介護費用をどう賄うか。少子化で支え手となる人間は少なくなり、高齢化で支えられる側の人間は増える。最近、厚生労働省が負担と給付の推計を示した。医療・介護費用は、現状の50兆円から2040年に92兆~95兆円とほぼ2倍に増える。ただ、対GDP比でみると、8.8%~12%前後で大きな変化はない。これをみると、持続可能に感じられるが、GDPが政府の期待通りに成長することが前提であることに留意することが重要だ。
 厚労省は、医療・介護・福祉分野の従事者の将来予測も示している。現状の従事者は823万人で、2040年度には1,065万~1,068万人まで増加するという。就業者全体に占める割合は、2018年度の8.3%から18.8~18.9%になる。これに対し、今後の政策で医療・介護需要を一定程度減らし、ICT、AI、ロボットの活用を見込むと、130万人(同2.3%)の人員を減らせる効果があると推計した。
 このような推計を踏まえても、人手が不足するのだから、サービス提供の効率性を追求することが、医療・介護にとって不可欠になる。
 2018年度診療報酬改定では、その考え方が反映された。入院基本料は、急性期の患者に対する看護配置の基本が、7対1から10対1になり、患者の状態に応じて、人を配置する柔軟な設定とする方向になった。多様な働き方に対応するため、常勤や専従の要件も緩和された。このように診療報酬でも、人手不足を踏まえた改定が行われることになったが、次回改定以降、もっと大幅に変えていくべきだ。
 これまで診療報酬では、ストラクチャー(施設整備や人員配置)を重視してきた。しかし、人がどんどん減っている中で、ストラクチャーで決めるのは無理が出てくる。早急に、プロセスやアウトカム、P4P(パフォーマンスに応じた支払い)の考え方を取り入れていくことが必要だろう。
 AIやIoT、ビッグデータといった技術革新、高齢者の雇用延長、外国人の活用に、病院も積極的に対応していく必要がある。働ける人には、できるだけ長く働いてもらいたいが、若い人たちが入ってこないのも困る。うまくバランスを取らなければならない。
 AIやIoT、ビッグデータは、世の中を大きく変えており、医療も今後様変わりするだろう。今回の学会企画では、それに関連する様々なプログラムを用意した。ロボットが外科手術を支援し、介護負担を軽減するなど、人間の機能を代替する。AIやIoTは、院内・外来、在宅を問わず、人を介在させずにサービスを提供する領域を拡大する。そうすることで、人手不足でも、医療・介護を支えられるかもしれない。医療者が果たす役割も改めて問われる。

 

全日病ニュース2018年11月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2018年7月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2018/180715.pdf

    2018年7月15日 ... ... 行われるものであ. ることを強調した形だ。 迫井正深医療課長が、「次期改定に ...
    医療介護の支え手の減少が見込まれて. いる」と現状を指摘。その上で、「限ら .... 人材
    の育成・確保では、医療従事者. への普及・啓発事業やスキルアップ研.

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年2月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170215.pdf

    2018年2月15日 ... が増加◇人口減少で支え手が減少◇開. 設者別に医療 ... 積み上げても意味はない。
    医療機能の. 分化・連携は、医療機関の自主的な取. 組みにより、収れんしていくものだ」
    . と述べた。 ..... 状況やリハ従事者の分布にも、地域格. 差がある。

  • [3] 医療事故情報収集等事業「医療安全情報No.132」の提供について(公益 ...

    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2017/171124_1.pdf

    2017年11月15日 ... この度、医療事故情報収集等事業において収集した情報のうち、特に周知す ... 支え
    した患者の転倒. 医療事故 ... この情報は、医療従事者の裁量を制限したり、医療従事
    に義務や責任を課す目的で作成されたものではありません。 ・・: l.

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