全日病ニュース

作業療法士の一言で人生が前向きに変わった

【特別講演３】ウィルチェアーラグビー日本代表アシスタントコーチ　三阪洋行

　学会１日目の特別講演３では、ウィルチェアーラグビー日本代表アシスタントコーチの三阪洋行氏が講演し、高校生の時、ラグビーの練習中に頸椎損傷で車いす生活になった自身の体験を通して障がい者スポーツと医療の係わりについて話した。講演は、高円宮承子女王殿下が客席でお聞きになった。
　ウィルチェアーラグビーは、車いす同士の接触が認められている唯一のスポーツ。４対４で戦い、選手は四肢に障がいのある人が対象で、一般のラグビーとルールが違う部分も多い。障がいの程度によって７段階にクラス分けされ、障害の重い人には低い点数が設定される。４人の持ち点合計を８点以内に納めなければならないので、障がい程度が重い人も一緒にプレーできる。
　三阪氏は、練習中の事故で入院・リハビリを経て車いす生活になった経緯を話した。「グラウンドに倒れた時、首から下は何も動かない状態になり、救急車で病院に運ばれた。１日半ぐらい眠ったままで、起きたらICUのベッドだった」。その後、リハビリ期間を含め８～９カ月間病院生活を送る。18歳の多感な時期に、突然自分の体が動かなくなり、未来への不安ばかりで時間だけが過ぎていった。
　一生歩けない、とわかるのはリハビリ病院に移ってからだった。主治医に「病名は頸椎損傷で体は自由に動かせない」と言われて頭が真っ白になり、その日は一日中泣いていた。翌日からリハビリが始まったが、毎日が不安で時間は淡々と流れ、この先楽しいことがあるとは思えなかった。
　ところが、一つの競技との出会いが人生を変えた。「作業療法士が車いすでもラグビーができるウィルチェアーラグビーのことを教えてくれて、ビデオを持ってきてくれることになった。その日は障がいを持って初めて前向きになれた。早く明日が来ないかとわくわくして眠れなかった。ポジティブな気持ちになって毎日が楽しくなった」と三阪氏はふり返った。
　一方で、障がいを受容することの大変さも感じた。街中に出ると、「周囲が自分を可哀そうという目で見ている」と感じる。人々は、障がい＝社会的弱者と受け止めていると勝手に考え、ふさぎ込み、引きこもりの生活が長くなった。人と接するのが怖くなり、ウィルチェアーラグビーだけが自分が自分であることを確認できる時間だった。
　そんな頃、ニュージーランド留学を決意する。「日本では甘えられる環境があると甘えてしまう。変わるには誰も助けてくれない場所に行くしかない。チャレンジしたい」という強い気持ちで留学した。
　日本との違いを感じたのは、「できることはどんどんやれ、できない時はサポートする」という考え方だ。「できないことはある。でも助けてもらうことでできることに変える。できることを増やすことでみんなと同じ場所で生きて、みんなと変わりない生活ができる」と考えるようになった。共生社会の第一歩を海外で学んだ。
　最後に三阪氏は、医療関係者へのメッセージを次のように述べた。「患者に施すだけでなく寄り添い導いてほしい。私は作業療法士の一言で人生を変えることができた」。