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ホーム全日病ニュース(2018年)第928回/2018年11月1日号病院の参画で地域のコモンスペースづくりを進める...

病院の参画で地域のコモンスペースづくりを進める

病院の参画で地域のコモンスペースづくりを進める

【市民公開講座2】地域包括ケアを含めた街づくり

 地域包括ケアシステムを構築するには、どのような街づくりを進めるべきか―。市民公開講座2では、建築家の藤村龍至氏(東京藝術大学美術学部建築科准教授)が、自らかかわるプロジェクトの実例を踏まえて、街づくりからみた医療・福祉への期待を語った。
 藤村氏は「地域が必要とする施設を設計する中で、コミュニティとのかかわりが増えてきた」と自己紹介した上で、埼玉県で取り組んでいるプロジェクトを紹介した。都心から40 ~ 60kmの遠郊外の5つのニュータウンを選び、介入型のプロジェクトに取り組んでいる。
 これらの地域は、1970年代から80年代にかけて、団塊の世代を中心に30代のファミリー層に居住地として選ばれ大きく発展したが、そこで育った団塊ジュニア世代には居住地として選ばれず、若年層が減少し高齢者割合が急速に高まっている地域だ。高崎線でいうと、上尾から行田にかけての圏央道沿いのエリアが当たる。欧米諸国の例では、空き家が増えてスラム化することも予想されるが、適切な再投資があれば、豊かなリタイアメントコミュニティに変わる可能性がある。「遠郊外の住宅団地を10年以内に本物のリタイアメントコミュニティにすることができるかが課題」と藤村氏は指摘する。
 例えば、所沢市の椿峰ニュータウンは、県の公園区域内にあり、環境保護により豊かな自然が残されている。高齢化が進み、住民の自治が活発だが、戸建てと集合住宅が混在していることから、自治会の組織が重複している。行政サービスの境界が入り乱れ、リーダー不在の状態であり、地域全体をケアする体制になっていないという課題がある。
 また、鶴ヶ島市では、10程度の自治会が集まって支えあい協議会をつくり、住民コミュニティの再編が進んでいるが、他方で、高齢者福祉の日常生活圏域は別の境界となっている。このため、サービスによって圏域が異なり、行政の混乱が起こっているという。
 鳩山町では、スーパーの施設を活用してコミュニティマルシェを開設。子どもの居場所づくりの社会実験に取り組んでいる。このプロジェクトは、藤村氏らが管理運営を担い、地元企業の協力を得て、工作教室や学習相談など子ども向けの企画を展開。新しいタイプの公共施設ができたことで、新たな動きも出てきた。子育て環境や都心への利便性などから、若い芸術家が鳩山町に移住するようになっている。
 公共施設に期待できない場合は、病院がその役割を担う例もある。川越のかすみ野ニュータウンでは、霞ヶ関南病院が積極的に施設を開放して街づくりにかかわっている。同病院は、リハビリ施設や地域包括支援センターなどの施設をニュータウン内外に開設。病院を中心にリタイアメントコミュニティが展開している。
 従来の住宅地は、住宅地と施設(集会所、図書館、医療施設、福祉施設)で形成されているが、藤村氏は「住宅と施設の双方を柔らかく開くことによって、街づくりの拠点となるコモンスペースをつくっていく方向が見られる」と指摘。市民が集まり、人を育て、仕事をつくる場所があれば、街は動き出す。「コモンスペースの拠点として病院が参画していくことができる」と藤村氏。多くの人が集まる病院が街づくりの担い手になることを期待した。

 

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