全日病ニュース

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病院・施設における身体拘束の現状と予防策

病院・施設における身体拘束の現状と予防策

【高齢者医療介護委員会企画】
高齢者医療介護委員会委員長 木下 毅

 「身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業」を厚生労働省老健局の2015年度老人保健健康増進等事業として行った。全国の病院、介護保険施設、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の中から無作為抽出した2,020機関にアンケート調査を行い、712機関(回収率35.2%)から回答を得た。介護保険で禁止されている11行為のうち、「ベッドの四方を柵や壁で囲む」「手指の機能を制限するミトン型の手袋等の使用」「Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルを付ける」は行われている頻度が高く医療保険適用病床で54 ~ 94%、介護保険適用では16 ~71%であった。介護療養型医療施設では33~ 72%とその中間であった。
 身体拘束行為の許容意識の調査では、「徘徊防止、転落防止、チューブを抜かないように、迷惑行為を防ぐために車椅子・椅子・ベッドに体幹や四肢を紐等で縛る」「立ち上がりを防げるような椅子を使用」「自分の意思であけることのできない居室等に隔離」を60~ 85%の施設が「理由を問わず避けるべき」と回答している。一方、「ベッドの四方を柵や壁で囲む」「手指の機能を制限するミトン型の手袋」は25~ 40%と低い。「ミトン型の手袋」は「点滴・チューブ類を抜去しようとする人」に48%使用されているが「実際に点滴・チューブ類を抜去した事がある人」が43%でその効果に疑問が残るので、安易な使用はさけるべきではないかと思われる。詳細は全日病のホームページに掲載されている。
 本庄内科病院の本庄弘次先生は、基本的には抑制が悪であることは議論し続けられているが、現実にはなぜ減らないのか、現場の判断基準は安全と尊厳のバランスを秤にかけるということしかないのだが、その秤がくるっていると大変なことになる。センサーの使用は当院では、早期発見にはつながっても予防にはつながらず、転倒の頻度は逆に増える事実が分かった。それは装着することによる安心感から監視の意識が低下するところにある、と指摘した。
 加藤綾子さんは介護老人保健施設アルボースでの経験から身体抑制廃止達成に重要な第一のポイントは、スタッフの意識改革である。抑制のないことが当たり前という意識への移行、抑制をしないための工夫をどのようにするかという発想転換である。個々の利用者に対してアセスメントを確実に実行し、家族と抑制廃止について密に話し合いを行い、抑制をしないことに対するコンセンサスを得た、と報告した。光風園病院の梅崎亜希子さんは1993年(23年前)に身体拘束を完全に廃止し、職員の意識改革に取組んできた。
 センサーの使用と適切な向精神薬の使用は、それが有効な効果を得ているかという点が重要である。身体拘束廃止には、医療従事者の高い知識とアセスメント能力が必要。そして病院トップの「身体拘束はしない」という強い思いが必要、と訴えた。
 上智大学の栃本一三郎教授は、介護保険に身体拘束禁止が盛り込まれた経緯について発表し、議論を行った。

 

全日病ニュース2016年12月1日号 HTML版

 

 

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